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2016年09月05日

ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』上・下

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)
ティムール・ヴェルメシュ
河出書房新社
売り上げランキング: 2,398

 これは少し前に読んだ。
 面白かったけど、考えさせられる部分もあったけど、そんなに騒がれるほどなのかなあ…と感じてしまうのは、欧州の人々の感覚が肌身ではわからないからかもしれないのと、日本ではあるある設定だからなのかなあなどと思う。総統さまが目覚めたら2012年でしたよ!?みたいなのは、欧米でもあるあるなのかどうか。

2016年08月31日

奥泉光『神器―軍艦「橿原」殺人事件』上・下

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件 (新潮文庫)
奥泉 光
新潮社 (2011-07-28)
売り上げランキング: 397,556

 そんなわけで、二回ほど読むのを挫折して積ん読してたのを昨冬に読んだ。面白かったので下巻を買おうとしたらどこにも売ってなかったのだけれど、職場の図書館に入っていた^^
 しかしなー、面白かったけど、という感じ。構成が雑というか、たとえば上巻前半の饒舌で冗長な石目の語りや身振りは後半から少なくなるし、あまり意味があったようにも思えない。幼馴染は伏線にはなっていたけれど、自らの性格についてなどいらなかった情報が多い。あと、下巻後半からはよくわからないというか説明しきらない部分が多くて消化不良。少なくとも途中までは、探偵小説的な面白さ(殺人事件)も、サスペンス的な面白さ(宗教的なあれこれ)も両立してあったのに、それがファルスやカオスに(悪くいえば)ごまかされてしまった感じ。ねずみの話も異なる時空間とつながるあたり面白かったけど、消化不良。末尾もそうでしょうねえ…という感じ。
 でも、時間つぶしの目的としてはかなり楽しめた。それだけになんだかもったいないなあ…と思う。

2012年12月09日

東野圭吾『仮面山荘殺人事件』

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社
売り上げランキング: 9084

 すこし前に読んだ。
 婚約者を事故で失った男が、元婚約者の家族に招かれて山荘に遊びに行き、実は彼女は殺されたのでは?という話題も出つつなんか銀行強盗に人質にされ立てこもられつつ、殺人事件が、という。

 片一方の犯人はわりとすぐ予想がついたんだけど、それがどう露見するのか、あとオチは、というのが予測がつかず、そして結構意外な結末だった。…しかし無茶というか、結構トンデモというか、まあフィクションだなあという感じ。そこそこ面白かったけど、読後感はあまりよくなかったかも。

2012年12月03日

筒井康隆『旅のラゴス』

 忙しかった…(涙。

旅のラゴス (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社
売り上げランキング: 5175

 文明を失った代わりに人々が超常能力を身につけはじめた世界で、ラゴスという旅人が、苦難にあったり目的を達成したり祭り上げられたりする話。

 面白いというか、読んでてそこそこ雰囲気を楽しめた。でも…。
 …筒井康隆なので、なんかどんでんがえしというか、こう、ガラっと作品世界が一変するような展開が出てくんのかな、と期待して読んでたら、ある意味では淡々と終わってしまった…。展開もそんなに予想を超えてくる感じではないし、ほんとにふつーにSFファンタジー放浪記、という印象だった。
 超常能力が存在する世界、ではなくて、超常能力をもつ者が生まれはじめた世界、というのも面白いし、過去の文明を失った理由やそれに触れられるという設定も面白いのに、のに~。それは(私の主観では)活きずに終わってしまったな~という感じだった。
 や、つまらなくはなかったけどね。でもなんか、作家的にも諸設定的にも、もう一段階層があるんではと期待してしまったし、そうだったらもっと面白かったかもなあ、と思う。

2012年11月18日

清水義範『迷宮』

迷宮 (集英社文庫)
迷宮 (集英社文庫)
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清水 義範
集英社
売り上げランキング: 32640

 ここのところミステリが読みたくて、積んでたものから読んだ。ねたばれあり。
 記憶喪失の男が、治療としてある女性の殺害事件にかんするさまざまな文章を読まされていく、というスタイルのお話。

 清水義範は以前結構読んだし、たぶん自分は結構好意的な方の読者だったんではないかと思うんだけど、正直ちょっとなあ…という感じ。
 いろいろな文章を重ねていくのはそこそこよくある手段ながらまあ面白いけど、同じことを同じように繰り返す部分が多くて飽きる。本来は同じことを違う方法で繰り返すための視点変化設定なんじゃないのかな。同じことを同じように繰り返してても筒井のダンシングヴァニティは面白かったけど…。というか、文章と視点が変わらなくても、同じ文章の中でさえまとめのように見えて実はただの繰り返し、みたいのが多くて余計に冗長さを増してた感じ。
 あと、オチがやっぱり今ひとつ。オチも記憶喪失の男の正体も普通すぎて、どんでん返しもなくて、かなり拍子抜け。最後の方で事件の意外な真相が見えてきて、という部分もあんまりおおっと思えるようなネタでもなく、また描写も淡々としていて盛り上がりに欠けた。
 オチとかがこうだし、記憶喪失の理由とか事件の結末も結局わからないので、本当は上述したような展開や描写、語り方の部分でもっと盛り上がりや面白みを出さなければならなかったのでは、と思うんだけど…。

2012年04月18日

パンティ田村『偉人ブログ』

偉人ブログ
偉人ブログ
posted with amazlet at 12.04.18
パンティ 田村
新書館
売り上げランキング: 69238

 パンティさん(田村さん?)のブログはいつも拝見しとります^^
 紫式部・清少納言・和泉式部の女子会とか、芭蕉ブログ、近藤さんブログ、明智光秀のまとめブログとかが特に面白かった。新ネタも多かったので満足^^
 でも日本の偉人ばかりで、海外の偉人のも読みたかったなー…と思ったんだけど、もしかして第二弾は海外編かしら。そうだといいな^^

2011年11月07日

高野和明『ジェノサイド』

ジェノサイド
ジェノサイド
posted with amazlet at 11.11.07
高野 和明
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 636

 なんというか、最初はすごい!と思ってたんだけど、後半ふつーになってきて、そこに首をかしげるような差し色がはいってきて、結果ちょっと微妙かなあ、という感想になってしまった。

 ほうぼうで賞賛されてるスケールのでかさ、という部分には、あたしはあんまり素直にのめりこめなかった。あまりにスケールがでかいので、ん?それほんと?と、ついつい懐疑的になってしまう。あと、IQ180オーバーの天才にしろ、もっと頭のいいアレにしろ、作者の能力を超えるキャラって書くの大変だよね…という感じだった。
 数カ所並行での展開はうまいし、たしかに輻輳っぷりは面白い。この作者らしい、ハラハラドキドキの展開も面白い。けどそれも中盤までで、重層的な物語をつなぐ軸が見えてしまったあとは、こちらの予想の範囲を越えてきてくれなかったなと思う。終わり方もあんまりそのまんまで、ちょっと残念だった。竜頭蛇尾とは言わないけれど、竜頭鰐尾くらいではなかろうか。
 あまり詳しくは書けないけれど、結局人間が生き延びる可能性を、人間にはいい部分もあるんですよー、ということにしか託せてなくって、ちょっとそれは安易すぎるというか、なんかもう一捻りほしかった…。精神面での話はどうしても陳腐になると思うし、たとえば技術面での担保とかもあったらよかったのに、と思う。まあそれをやってしまうと、人間がアレを越えてしまうから無理かとも思うけど、なんらかのもうちょっと複雑な思想がほしかった。

 ただ、さまざまなモチーフがカノンのように後から後から意味付けられていくありようは、巧いし美しかった。チンパンジーのジェノサイドを見る人間の構図が、人間とアレの関係の暗喩だったとことか。
 けどだからこそ、ん?コレはなんの意味があったの?と思ってしまう部分が逆に気になってしまったわけだけれど…。アマゾンでもすでにたくさん指摘があるけれど、そこここに無意味に(としか思えないのだが)挟み込まれる歴史観とか、日本の文化をことさらに軽視した言説とか、あれらはいったいなんなんだろうね…。日本人の行った虐殺について自省的に語るのに、広島や長崎に落とされた爆弾については威力の単位としてしか考えないなど、まなざしがあまりに限定的一面的すぎると思う。これは視点人物の大学院生の思考だ、という留保をつけたいとこだけど、それもできないような描写なんだよね。
 日本人の傭兵だって、彼の過去が後で語られてフォローされんのかと思ってたら、スルーだったし…あれじゃただの嫌な人じゃない。彼の行動がなければみんな死んでたかも、と一応のフォローはされてるけど、あまりに扱いが軽くて誰からも想像力を向けられなくて、もう逆にかわいそうだとすら思ってしまった。
 逆に、やたら親切で賢い韓国人留学生とか、軍隊がらみでなんか裏があんのか…とか思ってたらなんもないし、まるで大江健三郎の描くやたら美しい韓国人青年のまずいパロディみたいだった(笑。ホームから転落した外国人を云々、というとこもふくめて、なぜ韓国(人)だけをクローズアップしてんのか、わからない。
 もっとさまざまな国や民族にかんする、さまざまな角度からの言及があれば、こんなに違和感はなかったかもしれない。すくなくともこのテクストの中で示されたのは、日本(人)とアメリカ(人)は悪で、韓国(人)は善、という構図でしかないし、〈国家〉も個人もそんなに単純な存在ではないはずなので、せめてそれぞれ違った面からも描くべきだったと思う。こうした単純な構図はあまりに陳腐で、それが物語をつまらなくしてしまった一因だろうな、という印象だ。

 けどこういうとこが気になってしまうのも、物語の後半(特に末尾)がイマイチだったからかもなあ、という気もする。ともあれ、読み終わっての感想は結局、なんかもったいないなあという感じだった…。

2011年09月23日

上遠野浩平・荒木飛呂彦『恥知らずのパープルヘイズ』

恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-
上遠野 浩平 荒木 飛呂彦
集英社 (2011-09-16)
売り上げランキング: 12

 読み始めるのがすこし億劫で、読み始めたら読みすすめるのがもったいなくて、後半は読み終えるのがちょっと怖くて、そんなわけで三日くらいかけて読んだ。
 とりあえずの結論をいうならば、面白かった!というのと、質のいい二次創作みたいだった…あ、当たり前か!というとこです(笑。

 読み始めるのが億劫だったというのは、実は正直、フーゴというキャラ自体にはそんなに興味がなくて、あとフーゴ主人公ということはジョルノたちのメインストーリーからスピンオフした話になって、オリキャラ大量なのかなあ、と思っていたので、あんまし期待はしていなかったのです。

 そんなフーゴの物語、でも冒頭でのフーゴの、制裁を恐れてびくびくしている小物っぷりはかなり気に入りました。たぶん、そういうふつーさがブチャラティについていけなかった理由のひとつでもあるんだろうし、そう考えると納得できる感じだし。そのあとすぐに計算して冷静になるあたりも、そうかフーゴってこういうキャラだったんだな、と思えてすごくしっくりきた。
 そして、ミスタの相変わらずさと、その真逆の落ち着きっぷり計算っぷりもすごくよかった。お調子者っぽいとこはミスタらしいし、でも賢く堂々としてる、してられるのはあの戦いの中を最後までジョルノとともに駆け抜けて、そしてたった二人っきりで生き残ったからなのだろう、とこっちもすごくしっくり。
 フーゴの大学入学についての話とかも、彼をとことん落としていく感じがむしろ面白い!結末での成長も、その後の最後の普通っぷりも、たぶんすごくフーゴなんだなあ、とあたしとしてはしっくりきた。
 あとなにより、タイトルがすごくよかったよね。裏切り者の、ではなく恥知らずの、というきっついワーディングがすき(笑

 あ、ミスタはそんな感じで原作との近似も差異も意味があって面白かったんだけど、ジョルノは…ジョルノ好きとしては、ちょっと…残念な感じだったなー(笑。なんというか、つまんないし、ぜんぜんジョルノっぽくない。強い、大きい人間だと書かれているのに、うすっぺらく魅力がない。
 フーゴや他のギャング視点でしか書かれないからうすっぺらかったりするのかなあ、とか、作者がジョルノあんましすきじゃないのかなあ、とかいろいろ考えてしまった。まあ結局のところ、ジョルノを書くのはほんとうに難しい、ということなのかもなあ、とも思った(でもたぶん、だから=書くのが難しいからこそ、あたしの興味をこうして引きつけてくれてるんだろうなあという気もする、笑。

 しかしまあ…、作者は余程のジョジョオタか、もしくはジョジョラーですらなくって、この機会に余程読み込んで勉強したのかの、どっちかだろうなあ。まあイタリアについての解説も多かったし、勉強もされたのだろうけど。でもほんといろんなジョジョキャラ、エピソードが出てきてびっくり、かえって出し過ぎだよ、と思ったくらい(笑。神と星とかさあ(笑。ヴォルペ兄の話とかも、いやいいんだけど(笑、ヴォルペのスタンドと無理に比較して軽い話になってしまった気が…(あ、でもそういえば、スタンドをそのキャラの背景と結びつけて描写してくのは好ましかったv。でもやっぱりちょっと、饒舌すぎるかなあ、とあたしは思った。
 原作のセリフとか自体の引用も多くて、そんなに引用しなくてもちゃんと覚えてるよ、って思った。のだけれど、小説内部での引用というか、繰り返しも多くって、もしかして読者が読み取れないかもとかの気を使っているのかなあと思った。まあ一応、ジャンプ読者=少年読者へも配慮してる、ということなのかな…ちょっとこれまた饒舌すぎるなあ、と思ったけど。もうちょっと余韻で語っていいのにって。あっでも、暗殺チームがボスを裏切ったって設定忘れてたよ!最初のあたり、意味がわからくって困った…(笑。偉そうなこと言えないね(笑。
 あと過剰といえば、シーラEは出すぎ強すぎな感じ。セリフ多いし、スタンドも性格も強いし…オリキャラなのに、誰よりも出てくる感じがするからそう感じるのかなとも思うけど、ラノベの女のこキャラってこういう感じなのかなあ、とも思ってしまう。
 そのあたりもふくめて、この作者さんのほかの小説を読んだことがないので、比較ができないのはちょっと残念。言葉遣いとかもジョジョっぽいのはあえてわざとなのか、それとももともとそういう文体なのか、とかわからない。

 イラストというかキャラ絵やスタンド絵がいっぱいあったのはすごくよかった。あと例の写真…(涙。せつない~!けど顔がちがうひとみたい~(笑。あの、随分あとになって書かれた花京院みたいになってる(笑。あと、ジョルノの絵があったらよかったな~と思う。

 まあそんなわけで、とってもたっぷり楽しめましたv
 次は西尾維新ですね~!承太郎の話がいいなと思うけど、西尾維新に限らず誰も触れなさそうだなあ(笑。杜王町はすっごくありそうだけど、乙一が書いてるから別の場所の話がいいな~。
 舞城王太郎は読んだことないけど、ぜひアナスイとジョリーンの恋愛小説がいいな~!それが無理なら、アナキスとアイリーンでも妥協するよ!(笑

2011年01月23日

筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』

 梗概は書けないので、アマゾンから引用すると「美術評論家のおれが住む家のまわりでは喧嘩がたえまなく繰り返されている。一緒に暮らす老いた母と妻、娘たちを騒ぎから守ろうと、おれは繰り返し対応に四苦八苦。そこに死んだはずの父親が繰り返しあらわれ、3歳で死んだ息子も成長したパイロットの姿になって繰り返し訪ねてくる…。あらゆる場面で執拗に繰り返される「反復記述」が奏でるのは、錯乱の世界か、文学のダンスか?第4回絲山賞受賞。」とのこと。

 これはよい意味で筒井康隆らしい小説だった。
 梗概というか↑の紹介文を見て、同じ文章が繰り返されるとか筒井らしいが果たしてそれは面白いのか…?と思ってたんだけれど、これが意外と面白かった。「反復記述」というか、「反復とずらし」だよね。まあ、後半はあちこち読み飛ばしたりしたけど、逆に言えば前半はコピペ的部分もちゃんと読んだし、それが苦ではなかったのでやっぱり面白かったんだろう。

 お話の内容については、「反復とずらし」の永久運動の中で、主人公が評論書いたり戦争に行ったりしながら生きていって死ぬ間際までのお話、かな。
 技巧でというか技巧を読ませる小説なのだろうなあと思うけれど、それでも面白く読ませるというのはすごいなあと思った。けど逆に、きれいにまとまりすぎてる気もした。主人公の一人称の変化とか、妻のトラウマみたいな伏線を意外にも一応ひろっていくとことか、丁寧だなあ。ただその「反復」の構造はよくわかんなくて、おれは「想像」しているのか、夢なのか、夢だとしたらどこからどこまで?とか、よくわからん。わからなくていいんだろうけど。
 あとネタバレになるのかもしれないけれど、臨終の床の主人公が「選択肢を選んで」きたという言い方をしてるので、あらそうなの?「ずらし」は選択だったの?と、ちょっと驚いた。まあ確かに、戦争とか懲役刑は別として、けっこうトントン拍子にうまくいってたから、わからなくもないけれど。
 しかし女性の描写とか相変わらずだなあ、と思う。かわいいんだけど(笑。

 そういえば作者はこないだテレビで何かのバラエティ出ていて、ちょっとショックだった。そこで今敏がなくなったことが話題に出ていて、パプリカのことにちょっと触れてた(以上は備忘。
 ダンシングヴァニティの解説にもあったけれど、確かにパプリカもあるし、夢のお話わりと多いのかなと思った。

2010年11月21日

エリザベス・ムーン『くらやみの速さはどれくらい』

 自閉症が治療できるようになった世界。はざまの世代で軽度の自閉症が残っっているルウは、勤務先の製薬会社の自閉症をもつ仲間達とか、趣味のフェンシング仲間とかにめぐまれたこともあり、割合うまく折り合いを付けて生活している。パターン化すること、パターン化されたものがすきなので、仕事でもそれを活かし、フェンシングも真面目さとパターン化の能力を活かして上達してきていて、競技会ではいい成績をおさめたり、フェンシング仲間の女性とちょっといい感じだったり。しかしそんなある日、成人の自閉症の治療法が開発され、その技術を買い取った勤務先の会社から、職を失いたくなければ人体実験の被験者になれとせまられて、云々。

 ルウはある程度治療された自閉症ということで、アスペルガー症候群の症状としてよく聞くような主観が書かれていて、それはフィクションではあるのだけれど、とても興味深かった。そしてこの作品がうまいなあと思うのが、それが読んでいてちゃんと面白いというか、読み物としても成立してるというところで、独特の文体が心地良いし、わりとさらさら読めるし先も気になる感じ。その文体が末尾で解消するので、ああやっぱりそれまでは〈普通〉の文体ではなかった(というと語弊があるけれど、ゼロの文体ではなかったのだということ)のだなあと思った。
 なので単純に読んでて純粋にそこそこ面白かったのだけれど、自閉症やアスペルガー症候群にかんする啓発小説…としても読まれ得るのかも(そういう意図があるのかどうかはちょっとわからないけど)とも思う。一方で、ところどころあざとさも感じたし、作者本人は自閉症ではないようだし、やはりフィクションとして読むべきだろうなとも思う。まあでもそのあたりは、あたしのつたない知識であんましいろいろ書くべきではないよね多分。

 そんなわけで小説としての話に戻すと、上述のように娯楽ものとしてはそこそこ面白かったんだけど、ちょっと結末は…これは一体、どう考えたらよいのか…ものすごい淋しいラストだという気もするし、ある意味ハッピーエンドな気もするし…。そう感じる一番の原因は、マージョリとのかかわりの件なんだろうけれど。そもそもマージョリについては末尾ではほとんど触れられてないし。
 マージョリについての描写に限らず、結末自体があんまりにも急ぎ足で、いろんなことが説明不足だったというのも、どう考えたらよいのかよくわからない原因のひとつなんだよね。あんなに駆け足だったのはなんでなんだろう。ルウの物語としては末尾はオマケみたいなもの、ということなのかなあ。だからマージョリやトムのこともほとんど書かれてないのかな。
 まあでも、自閉症かどうかにかかわらず、人の人生というのは変化していくものなのだ、というのはある意味前向きな認識なのかあなとも思う。そして変化がニガテなルウの主観で、そのことを考えるというのも同様なのかな、と。

 SF小説としては、自閉症の治療法にまつわる設定や描写がものたりなかった。そもそもどういう治療法なのかもよくわからんかったし。治療法の宇宙開発とのかかわりとか、結末の展開にもかかわってきそうな設定で面白そうだったけど、あんましこれも書かれてないよね。なんだかもったいない感じだった。

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もくじ

ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』上・下
奥泉光『神器―軍艦「橿原」殺人事件』上・下
東野圭吾『仮面山荘殺人事件』
筒井康隆『旅のラゴス』
清水義範『迷宮』
パンティ田村『偉人ブログ』
高野和明『ジェノサイド』
上遠野浩平・荒木飛呂彦『恥知らずのパープルヘイズ』
筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』
エリザベス・ムーン『くらやみの速さはどれくらい』
森見登美彦『有頂天家族』
綾辻行人『十角館の殺人』
西尾維新『化物語』上・下
アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』
伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』
宮部みゆき『ステップファザー・ステップ』
架神恭介・辰巳一世『よいこの君主論』
薬丸岳『天使のナイフ』
恩田陸『ネクロポリス』上、下
今野緒雪『お釈迦様もみてる―紅か白か』
川端康成『伊豆の踊子』
乙一・荒木飛呂彦『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day』
乙一『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day』
放り投げ本。
セバスチャン・フィツェック『治療島』
伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』
三崎亜記『となり町戦争』
森見登美彦『太陽の塔』
マイケル・グレゴリオ『純粋理性批判殺人事件』
太田光・中沢新一『憲法九条を世界遺産に』
『ダ・ヴィンチ』9月号
六月に読んだものから。
五月に読んだものから。
四月に読んだものから。
三月下半期に読んだものから。
三月上半期に読んだものから。
一月にに読んだものから。
畠中恵『ぬしさまへ』
有栖川有栖『マジックミラー』
『日本の童話名作選―明治・大正篇』
六月に読んだものから。
十一月に読んだものから。
『飛行艇時代【増補改訂版】』
十月下半期に読んだものから。
十月上半期に読んだものから。
with Ajax Amazon
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