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高野和明『ジェノサイド』

ジェノサイド
ジェノサイド
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高野 和明
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 636

 なんというか、最初はすごい!と思ってたんだけど、後半ふつーになってきて、そこに首をかしげるような差し色がはいってきて、結果ちょっと微妙かなあ、という感想になってしまった。

 ほうぼうで賞賛されてるスケールのでかさ、という部分には、あたしはあんまり素直にのめりこめなかった。あまりにスケールがでかいので、ん?それほんと?と、ついつい懐疑的になってしまう。あと、IQ180オーバーの天才にしろ、もっと頭のいいアレにしろ、作者の能力を超えるキャラって書くの大変だよね…という感じだった。
 数カ所並行での展開はうまいし、たしかに輻輳っぷりは面白い。この作者らしい、ハラハラドキドキの展開も面白い。けどそれも中盤までで、重層的な物語をつなぐ軸が見えてしまったあとは、こちらの予想の範囲を越えてきてくれなかったなと思う。終わり方もあんまりそのまんまで、ちょっと残念だった。竜頭蛇尾とは言わないけれど、竜頭鰐尾くらいではなかろうか。
 あまり詳しくは書けないけれど、結局人間が生き延びる可能性を、人間にはいい部分もあるんですよー、ということにしか託せてなくって、ちょっとそれは安易すぎるというか、なんかもう一捻りほしかった…。精神面での話はどうしても陳腐になると思うし、たとえば技術面での担保とかもあったらよかったのに、と思う。まあそれをやってしまうと、人間がアレを越えてしまうから無理かとも思うけど、なんらかのもうちょっと複雑な思想がほしかった。

 ただ、さまざまなモチーフがカノンのように後から後から意味付けられていくありようは、巧いし美しかった。チンパンジーのジェノサイドを見る人間の構図が、人間とアレの関係の暗喩だったとことか。
 けどだからこそ、ん?コレはなんの意味があったの?と思ってしまう部分が逆に気になってしまったわけだけれど…。アマゾンでもすでにたくさん指摘があるけれど、そこここに無意味に(としか思えないのだが)挟み込まれる歴史観とか、日本の文化をことさらに軽視した言説とか、あれらはいったいなんなんだろうね…。日本人の行った虐殺について自省的に語るのに、広島や長崎に落とされた爆弾については威力の単位としてしか考えないなど、まなざしがあまりに限定的一面的すぎると思う。これは視点人物の大学院生の思考だ、という留保をつけたいとこだけど、それもできないような描写なんだよね。
 日本人の傭兵だって、彼の過去が後で語られてフォローされんのかと思ってたら、スルーだったし…あれじゃただの嫌な人じゃない。彼の行動がなければみんな死んでたかも、と一応のフォローはされてるけど、あまりに扱いが軽くて誰からも想像力を向けられなくて、もう逆にかわいそうだとすら思ってしまった。
 逆に、やたら親切で賢い韓国人留学生とか、軍隊がらみでなんか裏があんのか…とか思ってたらなんもないし、まるで大江健三郎の描くやたら美しい韓国人青年のまずいパロディみたいだった(笑。ホームから転落した外国人を云々、というとこもふくめて、なぜ韓国(人)だけをクローズアップしてんのか、わからない。
 もっとさまざまな国や民族にかんする、さまざまな角度からの言及があれば、こんなに違和感はなかったかもしれない。すくなくともこのテクストの中で示されたのは、日本(人)とアメリカ(人)は悪で、韓国(人)は善、という構図でしかないし、〈国家〉も個人もそんなに単純な存在ではないはずなので、せめてそれぞれ違った面からも描くべきだったと思う。こうした単純な構図はあまりに陳腐で、それが物語をつまらなくしてしまった一因だろうな、という印象だ。

 けどこういうとこが気になってしまうのも、物語の後半(特に末尾)がイマイチだったからかもなあ、という気もする。ともあれ、読み終わっての感想は結局、なんかもったいないなあという感じだった…。

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