!!!パラレル設定ですので、ご注意ください!!!一年時、ギイ←タクの片恋設定です!!!
「君が、好きなんだ」
口にする本人にとっては真剣そのものなのだろうとわかってはいても、最早ギイこと崎義一の耳には、それはありふれた言葉としか響かない。この屋上でのこうしたやりとりは、春からこちら何度も繰り返されてきているので、返す表情も答えるセリフも既にきまってしまっているのだ。
けれど流石にギイも、今回ばかりはすぐには返事ができず、相手の顔をまじまじと見返してしまった。
今日の相手は、これといって目立たない風貌ながら、常に固い雰囲気をまとったクラスメイトだ。彼をまじまじとみつめ、表面上はポーカーフェイスを保ちながらも、ギイは内心眉をひそめたい気分だった。
何しろその日ギイに告白してきたのは、こともあろうに、人間嫌いで有名な葉山託生だったのだ。
葉山は他人とかかわること、特に他人とのふれあいが極端に嫌いらしく、ギイはそんな葉山を、ひそかに人間接触嫌悪症と命名していた。当然といおうかそんな葉山は、コミュニケーションもお世辞にも上手とはいいかねる人間なので、それで悶着を引き起こすこともしょっちゅうだった。
クラスメイトで、そして級長でもあるギイは、もめ事を起こしている葉山に何度も助け船を出して庇ってやったものだが、そんな時にも葉山は、礼を言うでもなく、固い表情を崩さずにギイを見るだけだった。だからもめ事に首をつっこむ自分は、葉山には迷惑がられているのかもしれないと、ギイは思い始めていたのだ。
そんな葉山が、自分に恋心を告白してくるなどということは考えたことすらなかったし、目の前で告白された今でもうまく信じられない。もしかしたら、ギイの聞き間違い、なのかもしれない。
無言のままそんなことを考えていると、葉山託生は足下に落としていた目線を、ギイに向け直した。
「あの、迷惑だってことは、わかってるんだ。ただ、聞いてほしかっただけで」
ギイに向けられた強いまなざしは、ふとまたさまよう。
「それと、いつも。あの、かばってくれて、ありがとう。ああいうのって、君が親切でしてくれたことで、それでぼくなんかに好かれたりするのは、迷惑だろうって、わかってはいるんだけど」
たどたどしい言葉を聞いているうちに、ギイの心は次第に落ち着きを取り戻していった。どうやら、自分が葉山を気にしていたことは、迷惑でもなんでもなく、葉山は内心では感謝してくれていたものらしい。コミュニケーションの不得手な葉山は、そんな内心をギイ本人には伝えられず、ひとりで抱え込むうちに、ギイへの謝意を、恋心と勘違いしてしまったのだろう、きっと。
そう自分を納得させて、ギイは何とか笑顔をとりつくろった。
「別に、迷惑じゃないさ。お前の気持ちには答えられないけど、そんなふうに言ってくれて、うれしいよ」
やっといつもの言葉を口に乗せると、葉山は少し安心したように頬をゆるませた。
「うん、あの、聞いてくれてありがとう、崎くん」
そして、にっこりと微笑むと、少し慌てたように踵を返そうとした。
「あ、葉山」
ほとんど無意識に引き留めてしまい、ギイは自分でも驚いた。
葉山もびっくりした顔で、こちらに振り向いて戸惑っているようだ。
「な、なんだい」
「オレのことは、ギイでいい。皆そう呼んでるだろ」
途方に暮れたような表情に、今度は少し強ばったような笑みを乗せて、葉山は首を傾げて言った。
「うん、わかった………それじゃあね、ギイ」
「ああ、またな」
逃げるように去っていく後ろ姿を見送りながら、ため息をつく。
告白をふっておきながら、期待を持たせるようなことを言ってしまっただろうか。
いつもだったら、曖昧な期待をさせることを嫌って、決まり文句以外には一言だって付け加えやしないのだ。だが、愛称を許すくらいのことは、友人としてのコミュニケーションから逸脱してはいないはずだ。だから、大丈夫だ───そのはずだ。
自分のイレギュラーな対応に自分で言い訳をしつつ、ギイは自嘲気味に微笑んだ。
特別な意味で葉山が気になるわけじゃ、ない。
ただほんの少し、同情しただけだ。
ギイはひとり肩をすくめ、高い空を見上げた。夏も終わりの太陽は、まだじりじりと暑い。
なにしろ、告白の不受理に対してありがとうと言った、その時の自然な笑顔はあまりにも普段の葉山からはかけ離れていて、ギイを少しく驚かせたのだった。
きっと、あの笑顔が葉山の素なのだろう。普段の人間嫌いには、何らかの事情があるのかもしれない。そうなのだとしたら、気の毒なことだ。だから、つい同情心をかきたてられてしまったとしても、仕方がないではないか。
何にせよ、とにかくこの件はこれでジ・エンドだ。
そう自分を納得させて、自室に戻るべく、葉山の消えた寮への出入り口に、ギイもまた足をむけた。
Kanon für Die Sonne und ein Stern
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