崎谷はるひ『くちびるから愛をきざもう』
たぶんいつもより酷評気味です。
高校時代の同級生、社長かなんかの愛人の子で大学バスケのエース×年はいっこ上、トラットリアでバイトしつつ夜間の専門に通って料理人修行中な苦労人。
ほっとくとダメっ子な攻めのために受けはおさんどんのバイトをしてあげてるが、ある日合コンで一回あっただけの女子にできちゃったから慰謝料よこせ、とか言われて云々。
周囲にはいい加減の遊び人に見られがちだけれど、本当は夢や家族のためにがんばってて、言いたい奴等には好きなように言わせておいて、でも周囲にもみとめられてるイケメンなあいつだけは、自分のことをわかってくれる。
それ何て中二病?
うーん、やっぱりちょっと痛いよそれ。プラス、そんな周囲の高校生や大学生が、あまりに幼く書かれすぎというダブルパンチ。異質なものを排除したりいじめたりするとかって…周囲のモブは、主人公の中二病をよりきもちよくするための装置ですか?それに高校とか進学校って設定でしょ?そんな幼い高校生、めったにいないと思うんだけど。
いくらフィクションだって、BLがファンタジーだって、あたしは「終りなき日常」(宮台真司はアレな人だけれどこの言葉自体はわりあい有効だと今でも思う)を生きる一般人、をさげすむようなまなざしは好きじゃない。というかはっきりいって大嫌い。
BLはファンタジーだし、王子様が迎えに来てくれてハッピーエンド、というのそれ自体は別にいいと思うんだよ。でも、だったらその外にある(はずの)日常には手をつけちゃいけないし、まして下位に配置するなんてもってのほかだ。読者もふくめてほとんどの人間は物語のような展開にはかかわらずに生きていくし、その「終りなき日常」を生きるモブの人々と主人公や王子様を比較する必要なんかないはずだ。
と、まあその辺りは於くにしてもだ、高校入学からの回想があまりにダラダラ長くって苦痛で、なんであたし我慢してBL読んでるんだろう、とか思ってしまって辛かった。そのダラダラさがその後の二人の描写に活きてるわけでもないし、まあ必要なパートではあるにしても、ダラダラ書きすぎ。
展開も慰謝料のためにとりあえず働きまくる受けには違和感があるし、なんか疲れ果ててる受けの状況にまたしても読んでて辛くなってくる。なんでエンタメ読んで辛くならんと遺憾のか。
キャラ的にも主人公はともかく、攻めは高校のころの不器用ちびたんキャラと、大学生の不器用キャラと、その爆発ぶりと、そのあとのわんこキャラ、なんか統一感がなくてキャラたってない感じ。
あと、ものすごい勢いで読点が多かった。ラノベ文体ともまた違うのだけれど…あれだ、太宰文体だ!(笑
絵はよかった。最近の神葉理世は結構好きだ。
しかしとにかくあまりにひどい出来で、そういえば『恋花は微熱に濡れる』があまりにつまらなくて感想書いてなかったなあということまで思い出したりした。こっちは絵師もダメダメだなあと思っていたら、これがうわさの相方さんだったのね、ということを後で知った。
最近の崎谷はるひは、とか言える程にはこの作家を読んでいないけれど、この作家はなんかどんどんダメ化してる印象。もうなんだか、何がダメかというのがひとことにいいづらく、とりあえず〈語り手〉の自意識がテクストに悪い意味で出すぎ(なんてのは数字板の影響を受けての印象かもですけど。もう新刊買いとかはしないかも。