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2009年09月01日

英田サキ『この愛で縛りたい』

 大学からの親友同士、アメリカ行きが決まった受けはずっと好きだった攻めを監禁、無理矢理のっかって関係を終わらせようとするのですが云々。

 …あまりにごくふつうの話で、なんともかんとも。
 梗概の時点では、監禁というポイントがどう使われるのか、ってくらいの興味があったんだけど、そんなあたりもあまりに軽くてまったく面白みがなかった。受けの気持ちの強烈さとか、監禁という犯罪行為を覆すような攻めの気持ちの変化とか、ぜんぜん物足りなかった…。
 そんな感じで、キャラもお話も悪い意味でベタすぎて、しかもやけに淡々としてるので、ざーっと流してしまった。

2009年09月02日

いとう由貴『復讐はため息の調べ』

 第二次大戦中、機密処理の任務を遂行中にケガ人たちを島に置き去りにした大尉。戦後となり、実家は焼けてしまった上生真面目で要領のよくない元大尉は生活苦に陥っており、大事な義理の妹が栄養不足からか結核に。にっちもさっちもいかなくなったとこに現れたのは以前自分が見殺しにした元兵士で、妹を助けてほしいならお前の身体をよこせといい、復讐のために元大尉をなぶるのだが云々。

 中盤までは結構面白かった。
 受けは生真面目で不器用で、攻めになぶられつつも、恨まれるのももっともだし妹を助けてくれるのなら、と結構前向きで、攻め家の家事をしたりなんだり。
 攻めはわりとよくある感じというか、復讐にかられつつも受けのそういうところに次第に惹かれていって、という。
 なんだがしかし、ちょっといまいちカタルシスが足りない気もする。もっと受けはかわいそうでもいい気がするし。たとえば攻めが声をかけるまで妹のお見舞いに自発的に行けなかったりとか、そういういじらしいかわいそうさがもっとあったらよかった。
 というか、そういうドラマチックなかわいそうさを演出するのを抑制してるのかな?というような印象もあった。戦争ものというか、受けは過去の罪があるし、あんましかわいそうばっかりに出来ないし…という抑制を感じた。なんとなく。作者はどうか知らないけれど、テクスト主体が受けを断罪せねば、という意志をどっかに持っているような気がしたのだ。

 後半は、なんだかそういう抑制?のようなものも含めて、いろんな意図がいりまじって、収拾もつかなくて息切れしてる?という印象があった。というか、一番わかりやすい流れ(たぶん妹が亡くなる→受け自分を自分で断罪しようと自刃→攻めがなんらかの論理でひきとめるってなるのかな?と思った)を、なんでか抑制したような感じがしてて、ありきたりな流れを避け、あと上述のような受けの断罪のためにか、なんか妙な流れになってた気がする。そんでいろんな論理がグダグダとまとまらずに、よくわからないうちにそういうことになだれ込んでしまったような…。
 まあなんだか、テクストも論理や流れを整理できてない気がするし、あたしもなんだかいまいち整理できてないのだが…。

 まあいいや。
 戦争物としては(BLだからというだけの理由でこのジャンルから排除する必要はないよね)やはり戦争がいけないのであって兵士も被害者、という論理を、もうちょっとで別の角度から見据えられそうな気もしたのだけれど結局収拾つかなくてそこに落とし込んじゃった感じでもったいないなあ、という気がした。
 あとなんとなく、林芙美子『浮雲』を思い出したのだけれど、そういえばあっちは戦時下の思い出をひたすら美化して戦後がグダグダ、という逆パターンなんだよなあ。

 絵はいまいち合っていない気がした。

2009年09月04日

水原とほる『午前一時の純真』

 タイトルがいいなあと思って前から気になっていたのだがフェアで積んでたのでなんか今更読んだ。しかし…、純真なのは攻めであってほしかった…そのほうがエグくていいのに…。

 さえない大学生受けはある日深夜の駅で腹に刺し傷のある男に手助けを求められ、あれよあれよという間にいっしょにタクシーに乗せられて、なんかアパートにお持ち帰りさせられてしまうのです。ベッドとられたりなんだりして困ったのですが、男がモグリの医者に行くというので一安心してたらなんか男の拳銃を見てしまって、口封じとかゆって犯されるしまつ。そんなヤクザがよなよなやってきて、エロい写真をたてにいいようにされる日々なのです…。

 受けがとにかくダメで、ヤクザの押しかけを断れないダメっぷりがものすごいダメなのです。そして同級生のリア充にもていよく使われて、それでもリア充が好きとかゆうのもすごいダメぶりなのです。
 まあそんなダメ受けでも別にいいのですが、そういうダメっぷりでヤクザに好き放題させてしまう素地をつくって置きながら、なかなかヤクザになびかないのは一体どうしたことだ。
 なんか後半は、エヴァの二十六話を見ている気分でしたよ。えっ、あとこれしか残りページないのに、どうやってヤクザになびくの!?ページたりるの!?って。
 そんな感じなので、唐突にヤクザスキスキになられても、すんごい拍子抜けというか、なんでそうなったの???という感じでついて行けないのですよ。

 リア充はどうでもいいとして、ヤクザはヤクザで、まあ受けのことは好きらしいけれど基本ただの鬼畜だし、なんかいまいち物足りなかった。ただの鬼畜、ではなくてひと味ちがう鬼畜、だったらよかったのになあ。

 つまり、あれだ、ド鬼畜ヤクザ×普通の大学生だったら、『影鷹の創痕』の監禁ギャング×大学生のが萌えたなあ、と。あの攻めはほんとうに鬼畜だったが、少しずつ受けに心を開いていったり、その開き方がまたいまいち当を得てなかったり、凄絶な過去があったりするとこがとってもよかったのに…なのにアテウマだったのでガッカリだったんだよなあ…(笑。

2009年09月06日

「アリオーソ」1

「…同時に私はKが同人を始めた理由を繰り返し繰り返し考えたのです。
 その当座は頭がただ萌えの一語で支配されていたせいでもありましょうが、私の観察はむしろ簡単でしかも直線的でした。Kは正しく萌えのために同人デビューしたものとすぐきめてしまったのです。
 しかし段々落ち付いた気分で、Kの同人誌に向ってみると、そう容易くは解決が着かないように思われて来ました。ジャンルのメジャーCPとマイCPの衝突、――それでもまだ不充分でした。
 私はしまいにKが私のようにマイ神サイトが消失してしまってたった一人で淋しくって仕方がなくなった結果、急に二次創作を始めたのではなかろうかと疑い出しました。そうしてまたぞっとしたのです。私もKの歩いた路を、Kと同じように辿っているのだという予覚が、折々風のように私の胸を横過り始めたからです……

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※蟹魚です。

 私は月夜を歩いていた。
 暗闇の中、真っ直ぐに続く道を、月の光が細く照らしている。
 私はその中を歩いている。

 一本道をてくてくと歩きながら、いろいろなことを思い返す。懐かしい北方の国、生まれた朝の日の光。初めてサンクチュアリを訪れて目にした、並み居る聖闘士たちの聖衣のきらめき。その後長い間――私が最初の死を死ぬまで、日々丹精した薔薇たちのつややかさ。

 随分意識的な回想ではあるが、おそらくこれがあの走馬灯というものなのだろう。――そういえば、あの青銅とまみえた時も、冥闘士となり果て嘆きの壁に参集した折にも、走馬灯など見なかった。今度こそ本当に、これが最後になるのかもしれない。

 記憶のひとひらひとひらが、きらきらと光って現れては消え去っていく。そしてきっと、私の手には二度とは戻ってこない。大切な記憶たちを見送りながら、私は一向に現れてくれない男の姿を探していた。影のような闇のような、あのどこか薄暗い男は、私の思い出の中にはほとんど居ないも同然だった。時折黒い姿をさっと閃かせては、またすぐに消えてしまう。私は少し失望しながら、同時に諦めも感じていた。なにしろ生前、いや死んでからもだが、彼と私にはさしたる接点もなかったのだ。


(つづく)

2009年09月08日

中原一也『ワケアリ』

 ちまたでは流行っているらしい?マグロ漁船もの。
 船長×わけありっぽい美人。
 受けが男たちに狙われてるっぽいので注意して見てたらムラムラ。

 なんというか。
 キャラが薄いというか、記号が服を着て歩いているようなキャラが多かった。オラオラな海の男だけど受けの色気にはめっぽう弱い攻め、受けの秘密を握って好き放題するエロ船員、ごついオカマちゃん、礼拝をかかさないアラブ人…たちが、それぞれ今書いた以上の情報はほとんどないというか。攻めとか怒ると服を脱ぐとか、なんかなんのための設定なのか…ただよくわからんキャラというか、内面が余計わかりづらくなったというか。

 受けは中国マフィアのボス妻の不倫相手の子で、マフィアから逃げてきて、というのはワケアリにしてもワケアリすぎる。これまたとっても記号っぽいキャラで、あんまし奥行きが感じられない。
 それにマフィアから逃げるために地上を離れる、という流れ自体はわからんでもないが、マグロ漁船の中でそんなでっかい裏が必要なのだろうかとも思うし、逆にこの設定ならマグロ漁船が舞台じゃなくてもよかったんではとも思う。
 そんな受けはいろんな能力とか特技をもってて、後編ではそれらが役だったりするんだけど、なんか超人受けってだけであんまし内面とか見えてこないし、あとやっぱマグロ漁船じゃなくてもよくない?という気にさせられた。

 とはいえ、ではマグロ漁船に何を求めていたのか?と言われると、ちょっと困るんですけどね(笑。

2009年09月09日

加東セツコ『蔓草の庭』『忘れもの』

 まとめてしまうのもなんなのだが、なんというか、どちらも薄かったので…。

 『蔓草』のほうは、社長×部下の和装ぎみCP?と、従兄弟→社長弟の若者CP。社長弟が美人な部下が気になるも、部下は無意識魔性で。なんだが、四人とも描写があっさりすぎて…。
 しかし描写があっさりなのはキャラが多いせいではないらしく、他の短編も軒並みあっさり…。だらしないリーマン×家政夫だっけ…は、受けが男らしくて、どっちが攻めか想像つかないのはよかった。

 『忘れ物』は…なんだっけ。
 表題作は倦怠期CPものだったのか。年下生徒×書道の先生とか、前後編もかける必要あったのか…。

 というわけで、絵がきれいで、男っぽい受けが散見されるのはよかったのですが、あとはお話もキャラも薄すぎて全然印象に残らず、あまり面白くもなかったのです。
 この作家さんで、原作つきの漫画を読んでみたいです。

2009年09月12日

蛇龍どくろ『エンドレスワールド』

 洋食屋のバイトが料理にゴミ入れて文句つけようとした客を殴ったら、昔の連れのいとこだったのですが、連れが死んだと聞いて昔のことを思い出したりなんだり。

 あとがきでずっと書きたかったテーマで云々、というようなことが書かれていたのだが、一体何が書きたかったのだろう…???
 バイトと元連れのいとこのふたりの思い出の中でのその男は、自由の象徴…らしいのだが、なんかあんましそういう印象もない。クスリやって、従兄弟てごめにしてってのが自由なのか?自分の気持ちとかに気づいていない感じとか、怖がりながら自死を選ぶとことか自由なのか?よくわからん
 バイトといとこがなんでそういう関係になったのかもよくわからんし、それぞれの魅力も全然わからん。元連れの魅力もわからんかったが。

 そんなわけで、キャラもお話もよくわからんし面白いと思えなかった。
 たぶん理屈ではなくて勢いとか雰囲気でのめり込めたら面白いのかもしれないけど、まああたしには合わなかったってことなんだろう…。

岡田屋鉄蔵『千夜一夜-しとねのひめごと』

 バーのバイト×バーテン。
 相手は誰でもいい受けなのですがそれは恋愛にかんしてトラウマがあるせいらしく、放っておけと言われても攻めはなんとかしてあげたいのです。

 なんというか、シュールな残酷さとか、痛々しいとことか、びみょうにこなれない描線とか、初期の鳥人ヒロミをちょっと思い出した。絵がもうちょっとこなれてくるとすごくよさそうなのだが…。
 なんかキャラがいまいちつかみきれないような感じと、受けの昔の彼の強烈な印象とか、見守っていろいろしてくれたからってのはわかるにしても攻めを受け入れた経緯がよくわからないこととか、びみょうにすごく面白いとは言い切れないような、そんな印象だったのですよ。

2009年09月13日

バロック。

 今日は知り合いの方の合唱の公演を聴きに行ったのですが、バロックというかバッハというか教会カンタータしばりなんて超燃えますね!
 アルトパートのソリストがカウンターテナーの方だったのですが、ふつうにスーツにタイでテノールバスのひとびととおんなじ服装だったのでなんというか。ていうかむしろこっちがやっぱ特別な目で見ちゃってるなあというか。
 なんかそのあとごはん食べに行ってワインに一万円以上かけてしまい酔っているのでダメダメなのです。

2009年09月14日

高尾理一『天狗の嫁取り』

 祖父が亡くなって葬儀のために久々に田舎に来たのですが、裏山で黒い天狗達に襲われて、なんか白い天狗が助けてくれました。黒天狗達が獲物を横取りするなとかうるさいので、毎年天狗にゆりをたてまつる契約をしてた人間が亡くなったので、かわりに孫を伴侶にする契約をするとかゆって、衆人環視の中であんなことを!

 なんかなあ、ありきたりな人外ものだったなあ、という印象。高尾理一らしさも感じられないし、いまいちだったなあ。
 受けが素直系だからいかんのかもしれないなあ。高尾理一の素直受けって、かわいいんだけど、あんまり面白くないんだよなあ。
 攻めの天狗は、天狗らしさというか、人外らしさがぜんぜんなくって、やっぱり面白味に欠けていた。言葉の足りなさとか他者の気持ちへの疎さとかはあったけど、それって人外らしさというよりも、ただ不器用俺様攻めなだけ、って感じで。
 結局、天狗とわかりあえないのは人間と天狗で価値観が違うから仕方ないし、受けも天狗化していけばそのうち齟齬がなくなるだろう、というなんか楽観的くさいものにフタ的なラストもいまいち。受けは自分が契約の血筋でなかったら伴侶にしてくれてなかったのかも、とか悩んでいたが、天狗じゃない人間のままの自分と天狗との齟齬はなくならないだろうという点は気にならないのかな。

みなみ遙『2乗な恋の駆け引き』

 やさしくてカコイイ会社社長令息の彼と同棲をはじめたら、なんかやさぐれな第二の人格があらわれて云々。

 この設定いいよね(笑。けっこう厳しい設定のみなみ遙は面白いと思う。厳しめ設定でもどシリアスにはならないので、ちょっと勿体なくもある(こういう設定でもっといろいろつきつめて書いても面白そうだから)けど、こういうある程度の軽さの担保がある中で、厳しい設定というのも、それはそれで。
 ただ、第二の人格はあくまで主人格の一部だという設定で、やさしい攻めとちょっといじわるな攻めの二人×受け、みたいな感じには最終的にはならなかったので、あんまりお気軽過ぎなラストにもならなかった。でもそういう徹底的にお気軽なのも好きですけど(笑。

2009年09月15日

大和名瀬『NEWSな彼!』

 スター×貧乏な高校生。
 家にテレビがない受けは、となりの高級マンションに住む超スターと知り合って、なんか気に入られてそう言うことに。

 スター×凡人ってありがちながらも王道で大好きなので、大和名瀬なので、とっても期待していたのですが。
 面白くなかった。
 なんだろうね、攻めが普通すぎてキャラがたってないんだよね。受けはふつうのこで、ふつうでもいいんだけど、攻めがキャラたってないから受けも印象薄い。
 あとお話だと結構よくある配置だけど、高級マンションとボロアパートが並んでたっているのってあんましなさそう。

奥田七緒『トリコになりました』

 だいたい高校生くらいの話が多く、不思議ちゃんが出てくる話が多かった印象。
 ゆるゆるのんびりで、不思議ちゃんのテンポとか雰囲気とかが合えば楽しい。
 あと、もしかしたら、テニス好きの方にはテニス二次っぽいのかもなあ。

 表題作はハーフの古典教師×秀才不思議ちゃん。なんで攻めがハーフだったのかわからんかった。
 兄の友だちにラブ、な話はシリアスでちょっとアンハッピーだった。
 メガネフェチ大学生←メガネとかライトでかわゆい。
 友人に言い寄られたけど、なんとなくつきあい始めた彼女がいるし…な話はオチにすこし驚いた。
 あとは両想いなのにすれ違いな高校生とか、不思議攻めに犬の散歩に誘われて仲良くなる話とか。
 全体にあんまし印象に残った話はなかったが、まあ雰囲気がかわゆいのでよかったかと。

2009年09月17日

空知英秋『銀魂』30

 最近の長編シリアスはちょっといまいちだなあ…。真選組編とか面白かったし、作者の力量の問題ではないというか、単に作者がお疲れなんではないかという感じがする。
 歯医者の話はいい具合に力がぬけてて銀魂らしくて面白かった。というか、銀時と土方が小学生男子レベルではりあってる話は、やっぱり面白いな。

the pillows 20th Anniversary LATE BLOOMER SERIES 06 “LOSTMAN GO TO BUDOKAN”

 ということで、昨夜はマリィさんといっしょにロストマンゴートゥ武道館にいちきました!

 いろいろは後ほど。とりあえずセットリスト。

01. サンキューマイトワイライト
02. マイフット
03. ノーサレンダー
04. アナザーモーニング
05. ウェイクアップドードー
06. プロポーズ
07. スケアクロウ
08. ニューアニマル
09. 90'Sマイライフ
10. ぼくはかけら
11. ワンライフ
12. 1989
13. サリバンになりたい
14. レディバードガール
15. ファニーバニー
16. アイノウユー
17. ストレンジカメレオン
18. サードアイ
19. この世の果てまで
20. その未来は今
21. 雨上がりに見た幻
22. ハイブリッドレインボウ

EN1
01. プリーズミスターロストマン
02. スワンキーストリート

EN2
01. カルヴェロ
02. ライドオンシューティングスター
03. リトルバスターズ

EN3
01. ポイズンロックンロール

2009年09月18日

the pillows 20th Anniversary LATE BLOOMER SERIES 06 “LOSTMAN GO TO BUDOKAN”その2

 ということでロストマンゴートゥ武道館です。
 20周年です。
 …ピロウズ、本当におめでとう~!!!!!続けてくれてありがとう~!!!!!

 九段下でマリィさんと待ち合わせたのですが、勿論平日なのでお互いに仕事帰りで、時間も開演小一時間前。会場に行ってみたら物販がものすごい列になっていて、いちおう並んでは見たのですが開演に間に合いそうになく、諦めました(涙。
 武道館は入るのも初めてだったのでどきどきわくわくしてたのですが、頭上の日の丸にビックリしました(笑。あと、今までのピロウズライブにはない(笑)広さで、おお~って感じでした。
 例によってチケットはあんまし気合いが入ってない感じでスタンド席だったので、観覧席の傾斜がきつくてちょっと怖かった。しかもかなり後ろの方だったので、ちょっと淋しいなあという感じ…でもライブが始まってみれば、スタンディングゾーンからスタンド席最後列まで、端から端まできっちりみんなあっついバスターズで、ぜんぜん淋しくなかったですvむしろ燃え燃えの会場とステージがよく見えてよかったかも、という。

 冒頭、剣がかさなっていくCG映像に、おお~金の力再びか!と感慨にふけりつつ、一曲めが!ついに!サンキュー!!…改めて、いい曲だよな~!!!
 マイフット!!主力級を二曲続けてなんて、やっぱアニバーサリーライブはひと味ちがうなあ、とか思ったんですが、さわおの意図はそうではなかったみたいというのは後述。
 ノーサレンダーはなんかロックバンドっぽいので(笑、や、いいんですけど、嫌いではないんですけど、なんかこう。ドキドキする。どんなに悲しくても生き延びて、また会おう!のとことかライブバージョンだったけど、カッコイイんだけど、なんだかロックバンドみたいでこう、ドキドキ。でもやっぱりライブらしくていい。

 アナモニ、いい曲だなあ~なんで売れないんだろうね!
 ドードー、やるとはあんまし思ってなかったし、ここに入るとはもっと思わなかった。けど歌詞的にアナモニの後であってるかもね。まだ足りないって目覚めたいー。
 プロポーズはやっぱり大好きだ!君にプロポーズを、は遠目であんまし見えなかったので、DVDで見たいな。
 スケアクロウはピロウズらしくていいよね。
 …あれ、このイントロなんだっけ…絶対知ってるはずなのに…とか思ってたらニューアニマルだった。ごめん。

 90'Sマイライフは聴いたことあるようなないような…。
 ぼくはかけらは古い曲つながりか。ライブっぽいしいいと思う。
 ワンライフはいいのだが、青い花の映像が安っぽくて少し泣いた。
 1989はダメなことに初めて聴いた…。日付のカウントダウンと、ちょっと古いアニメみたいな映像に気を取られてしまった。
 サリバンになりたい…古い曲はいいんだけど、なぜこれだったのだろう。

 さわおがバスターズへのラブソングを、とかいうのでボートハウスかパトリシアか、とか思ったらレディバ…!!えぇ~!!この曲もそうだったの!!という。広い意味なんかな。でもそういえば、前もこの曲をラブソングとして紹介していたんだった。
 ファニバニも燃える~サビの合唱とかなんか最近やっと時々やるようになりましたよね、という感じなのだけれど(笑、この大きなハコで大合唱とか、なんだかんだでやっぱ燃える!
 そんでアイノーユーをやったあたりでやっと気づいたのだが、このライブはキャノン&アンセムではなくて、ライブ定番曲がメインのライブなんだな、と思った。それにたいする感想はまた後述。

 ストカメは、それはやるよなあ、そしてやっぱ燃えるよなあ…!ライブバージョンはやっぱスゴイ。しかしなんか世界平和祈念みたいな映像があってなかったのでちょっとどうかと。
 サードアイはちょっとびっくりしたのだが、やっぱこれもライブ曲なのだろう。果てもね。そしてそんなわけで、その未来もそろそろライブ定番だよね。
 新曲は、まずいこと(?)に初聴きというか買ってなかったので、ああ~!という感じでした。バスターズ失格かなあ、と。映像で飛行船が出てきたから次はあれか、という。
 で、やっぱりのハイブリはやっぱり締めだったし、もう完璧。

 アンコールのイントロが未収録だったので、まさかここで新曲、と一瞬思ったけれど、どう考えても聞き覚えのあるイントロだったので何だっけ何だっけ…と思ってたら、ああ!ロストマンだった!ロストマンのライブバージョンで、アンコールにロストマンなんて…燃える!15周年のときはこれが一曲目だったのだ。
 そして、スワンキーは意外だったし、しかもアンコールでというのはとっても意外だったけど、これもけっこうライブの定番なのと、アルバムロストマンの曲なのとでなんかそうかと納得。

 ダブルアンコは何かな~と思ってたらカルヴェロだった!(笑、そう来るのか~、と。みんなかわゆいし、この曲のときはさわおpeeちゃん淳さんの三人がおんなじかっこをするので、淳さんがメンバーかのようだ(笑。
 ライドンはほんとうにかわゆい~。しかしなんで映像が眼鏡だったのか、PVがゴーグルだからなのか…。
 リトバスはああやっぱ最後にこれもってきたんだ、そうだよなあ、と。(ピロウズにしては)広い会場が、バスターズのこぶしでうめつくされて、ほんと燃えた!!!
 でもこれで終わりでなくって、なんと更にポイズンが…!!わあ…!!燃えた!!!三度目のアンコールに、さわおには調子に乗りやがって、とか言われたけど!!!(笑。前のライブではこの曲好きだけど盛り上がるけど短いよなあ、とか思っていたんだけれど、なんか後奏長くってよかった。

 さいごのさわおの「今度はもっと小さいとこで遊ぼうぜ」って言葉はすごいよかった。ピロウズは20年ですごいかわったけれど、ぜんぜんかわってなくって、これからもかわらないんだろうな、と思わせてくれて、いい挨拶だと思った。

 今年はすんごい忙しかったのもあって、ベストアルバムとかリマスター盤とかぜんぜん追えてなくって、新曲すら聴けてなかったんだけれど、やっぱピロウズ大好きだ!とあらためて思いました。ニューアルバムも楽しみだなー。
 そして、まだ続きます(笑。

2009年09月20日

the pillows 20th Anniversary LATE BLOOMER SERIES 06 “LOSTMAN GO TO BUDOKAN”その3

 三度ピロウズ20周年おめでとうでした。

 というわけで、いいライブだったし行ってよかったと思いましたが、セトリについては思うこともありました。
 前回のエントリで書いたように、たぶん今回はライブ定番曲を多くやっていて、たぶんそれはいつものライブの延長の武道館ライブ、という演出だったのかなあという気もするのだが、物足りない気持ちはやっぱりあった。
 主力級の曲ということでいえば、バビロン、グッドリあたりは入れてもよかったんではと思う。あとランハイがなかったというか、アルバムランハイの曲を一曲もやっていない。ビバークからだってファニバニだけで、ライブでよくやるのにキムディールもアドバイスもやってない。
 何よりレジスター、ノンフィクションあたりなんて、ここ最近(といっても二年前くらいだけど)のライブの定番だと思うし、15周年のときには生まれてなかった曲だし、やってほしかった。や、あたしが好きだからというのもあるけど。
 英詩曲はカルヴェロだけだったし、インストもやってほしかった。
 あと、今回ついにサンキューをライブできく、という野望は果たしたのだけれど、…実はノーサブも聴きたいんだよなあ(笑。どんどんワガママになるけれど。ていうか、スマイルとかも一度でいいから聴いてみたい。でもなんか、どっちも普段はやらないだろうし、こういうお祝いライブではもっとやらないだろうなという感じの曲なので、果たして今後聴ける機会があるのかどうか…。

 というわけで、一曲目のサンキューと、アンコール一曲目のプリーズミスターロストマン、なのです。
 サンキューは数あるピロウズの名曲たちのなかでもいろんな意味でスゴイ曲だと思ってるので(異論はあるとは思うけど)、この曲から始まったのはあたし的にはすごくしっくりきた。
 そしてロストマンは、三期の始まりのアルバムかつあたしがはじめて買ったピロウズのアルバムのタイトルチューンなので、これまた特別な曲なのですが、前にも書いたようにこの曲は十五周年ライブの一曲目でもあったのです。十五周年ライブはあたしがはじめて参加したライブでもあるので、なんかいろいろ契機になってくれる曲という印象です。だから特別な曲だけど今回の一曲目にやると今後もロストマンからはじめなければならなくなるし、でもやっぱり特別な曲なので、だからアンコールの一曲目ですごくしっくりきたのです。
 そんなあれこれを考えてると、次には何がピロウズの/バスターズの/あたしの、特別な曲になるのかと、楽しみですね。

 そういえば、ニューアルバムのタイトルはオーパーツだそうですが、冷静に考えてみると、ある時代の技術では作成不可能なはずの作品…って、これまたさわお的にすごい大見得きったタイトルなのか…!(笑。そんなこんなで、やっぱり楽しみにしていますv

2009年09月22日

「アリオーソ」2

 初めて彼を見たのは、何度目かにサンクチュアリを訪れた時のことだった。

 修業時代は私はほとんどグリーンランドにこもりきりだったので、双魚宮に常駐するようになったのは随分と後からだった。だからその時も、何かの報告で久しぶりにサンクチュアリを訪れただけであったのだと思う。教皇の間から退出して石段を下りてゆく私の背後から、聞き慣れない言葉で話しかけてきた男がいた。それが彼だった。振り返ると、ちょうど今降りてきたばかりの階段の上に、銀髪に赤い目をした派手な男がにやにやと笑いながら立っていた。

 昏い男だと思った。明るい色の服を着ては居ても、全体の雰囲気はまるでギャングかなにかのようであったし、どこか怖いような印象があったのだ。さらに驚いたのは、彼の顔つきや様子だけではなく、小宇宙までもが暗澹とした色をたたえていたことだ。サンクチュアリでは輝かしい黄金聖衣を身にまといきらきらとした小宇宙をもつ黄金聖闘士ばかりを見慣れていたので、そのほの昏さには正直ぎょっとした。意味のわからない呼びかけも、そんな彼の昏さとあいまって少し気味が悪かった。

 後から知ったことだが、彼はイタリア人であるらしいので、おそらくそのときも彼は母国語で私に話しかけていたのだろう。つたないギリシア語で問い返した私に笑い声ひとつを返すと、そのまま立ち去ってしまった。取り残された私はしばらくあっけにとられたまま彼の後ろ姿を見送っていた。

 驚くべきことに彼は黄金聖闘士であり、出会った当時既に黄金聖衣を許されていたのだという。あの昏い小宇宙が黄金聖闘士のものだとは、初めて聞いたときには到底信じられはしなかった。

 かすかな興味を覚えたものの、彼に再会するまでには結局随分長い時間を要することになった。年齢はひとつしか変わらなかったのに、私は彼とすれ違ってばかりだった。修行期間もずれていたし、彼のほうでは弟子の育成だといって随分長いことサンクチュアリを離れていたこともあった。任務につく時期もばらばらで、まして共闘したことなど――黄金聖闘士の時には、一度もなかった。

 親しく話す機会もなく、また特に親しくなりたいとも思わなかったので、彼に注意を払うことはほとんどなかった。彼の昏い小宇宙とともに、彼が私に何を言おうとしていたのかは少し気になっていたが、彼の笑い方やなにかからおそらくからかいの言葉か何かであったろうと思っていたし、全体としてあまりいい印象は持てなかったのだ。


(つづく)

2009年09月25日

稲荷家房之介『ザイオンの小枝』

 楽しみにしてたコミクスが出たー。
 のですが…。

 ユダヤ人青年×ナチ将校。
 受けは攻めの育ての親?で、戦後攻めが受けを監禁愛…???
 …という、今まで雑誌などで垣間見ていてなにやらワクワクさせられていたお話の全体像がコミクスでわかるんだろーなー、という期待は見事に裏切られ(笑、上記のような?らしき?設定の短編が数本あるものの、物語の全体像どころか、二人の関係も何があったのかもよくわからん。もうちょっとは書いてほしかった…。ネコミミ番外編はいらない…と思いつつ、このままよくわからないCPがいました、というだけだったらもっと後味わるかったかもしれないから、和み要素があってよかったのかもしれない…。
 あと受けの身体が細すぎて、監禁されてて弱っているのかな、と思いつつも、なんだか子どもみたいでちょっと残念だった。
 まあでも気になるし、続編が出たらまた読むとは思う。

2009年09月26日

愁堂れな『嘆きのヴァンパイア―愛しき夜の唇』

 結論からいうと、最近の愁堂れながダメなのか、それともあたしの打率が悪いのか、それが問題だ。

 なんだろう??こんなにつまらない作家さんだったろうか?
 多作な作家さんだし作品全部を追いかけてるわけでもないから、あたしがつまんないのばっかり選んで読んでるのかなあ、と…。

 金髪碧眼吸血鬼×龍をせおったヤクザ。
 弟を殺した対立組織のチンピラ数名にたいする殺人罪で服役してた受け。出所後、恋人兼舎弟にすべては自分らのとこの組長が仕組んでたと聞かされて逆上し復讐にむかうも、返り討ちにあって数発の銃弾をくらい死んだと思ってたら生きてて、なんかロン毛の美形白人が助けてやったんだから礼をしろとか言ってきて云々。

 吸血鬼ものというのと、受けがヤクザというのと、絵がやまねあやので美麗なので期待して読んだのですが、なんかグダグダだった。
 話の筋としては、復讐の物語が面白くないのに結構えんえんと続くし、やっと吸血鬼出てきたと思ったら交流もちぐはぐであんまし進展もないし。
 キャラも、受けはあんまし特徴なくって、逆上したり淡泊だったりという設定もただ周りに流されているだけみたいで微妙。着流しに長ドスって、まあロココ調吸血鬼にはお似合いかもしれないがそのまま新宿歩いててよく捕まらないな。
 吸血鬼は飄々としてるのはいいけど、受けへの気持ちもなんかよくわからんしもっと受けに執着するとかなんか内面語るとかしてくれないと印象にぜんぜんのこらないよ。
 受けの舎弟はバレバレだけど、それはさておいても登場してすぐあたりから非常に気持ち悪くて読み飛ばしたくなったよ。
 吸血鬼の召使いぽい少年は、ツンデレはいいけどデレが末尾にちょっとくらいなのでなんかムカつくキャラに感じてしまうし、もうちょっと受けになついたらよかったのに。

 これサブタイトルついてるけど、続くのかなあ…。

2009年09月27日

本間アキラ『兎オトコ虎オトコ』1

 なんかあんまし面白くなかったな。読んでる間はハテナをおぼえつつもそこそこ面白く読んだような気もするのだが、思い返してみるとなんだかな、という印象。

 ヤクザ×メガネ外科医。
 怪我してるところを助けてもらったヤクザが恩人を捜して、うさぎちゃんみたいなかわゆい外科医に結局めろめろ。

 外科医はヤクザに目をつけられて気の毒だが、主体性ないし印象あんましよくない。なんか最後のあたりとか自覚的ではあるが自己中だし。
 ヤクザはなんで恩人が男だったくらいで殴ろうとか思うのか。ずっと黙ってられてだまされたような気になってるのか。なんかそういうとこからこまかい機微がいまいちわからんしとっつきづらい。このキャラ独自の魅力もBLヤクザの定型の魅力もあんましない感じ。
 絵が外科医はかわゆく描こうとしているのだと思うのだが、そのかわゆさが追求されきってない感じでなんだか絵柄まいごという感じ。
 ウサギとトラというモチーフもあんましうまく活きてる気がしないし、時折出てくる擬獣化もなんかちぐはぐ。
 というか全体的に、絵もお話もキャラもまいごな感じ。
 というか、最初の攻めが撃たれて倒れてるとこで、銃創書き忘れているようで、なんかそこから既にハテナだったんだよなあ。その銃創もなんか外科医の応急処置のまま翌日から元気に動き回りまくりだし。妙に意味深だった猫は結局どういう意味があったのかよくわかんないし。

 前後編の天才少年×公務員ものもあんまし面白くなかった感じ。

2009年09月28日

「アリオーソ」3

 そうこうしている間にあの青銅たちがサンクチュアリにやってきて、そしてすべてが終わった。

 次に気がついた時には、私は既に冥界の住人となっていた。
 死者となることは、当然ながら辛いものだった。確かに自分はそこにいるのに、そこに存在しているのに、どこにも自分がいないというあの感覚。焦りや後悔の入り交じった感情に悩まされ、そうした心が確かにあるのにもかかわらず自分が既に存在していないのだという矛盾に随分苦しんだ。
 サガがいうには、小宇宙という強大な力を冥界においても持ち続けているがゆえに、私たちは普通の人間よりも強い感情が残ってしまったのだろうということだった。裏切り者の黄金聖闘士には、ふさわしいような罰だった。
 だがいずれにしても、既にすべては遅かった。青銅たちの、そしてアテナの行く末は気にはなってはいたが、いくら小宇宙を保っているとはいえ死者の身では、何が出来るでもなかった――ただひとつ、もしかしたら間に合うことがあるとしたら、それは。

 冥界でついに私は、あの男と再会した。
 ふらふらとうろついているうちに山羊座を見かけて近づいてみると、シュラはあの男と立ち話をしていた。
 シュラとは年齢が近く、宮が近いこともあり割合に親しくしていたのだが、あの男とは結局疎遠な同僚のままに終わってしまったので、私は二人に声をかけるのを躊躇して、少し離れた場所から二人を眺めてみた。彼は変わっていなかった。薄暗い冥界に彼の昏い小宇宙は随分とうまく溶け込んでいて、陰惨な雰囲気はより濃くなっていた。やがてシュラより先にあの男が私に気づくと、ふっといやな笑い方で笑った。
 ああお前もサガについてたのか、お互いヘタこいたよな。
 私にむかってそれだけ言うと、シュラの肩をぽんと叩き、彼は踵をかえしてどこかへと行ってしまった。
 相変わらずいやな男だ、と思った。同時に、どうやら私は彼に疎まれているらしい、とも。今まで殆どといっていいほど交流がなかったのも、単管に縁がなかったことにくわえ、彼が私を避けていたものなのかもしれない。

 そこまでは私の被害妄想であったのかもしれないが、いずれにしても彼も私も既に死者となり、ここ冥界にやってきた。死者の生活――生きてもいないのに生活もないものだとは思うのだが、とにかくそれは単に時間が過ぎていくというだけのことであり、何らの生産的な活動も赦されてはいなかった。
 冥界では、新しいことは何も起こらない。
 彼との関係も、何も変わりはしなかった。

(つづく)

2009年09月30日

「アリオーソ」4

 だが、やがて先の教皇という男がやってくると、すべては一変した。シオンという名の前教皇は、私たちが小宇宙を保ったまま冥界にたどり着いたのは何も偶然ではない、死者たる私たちにもまだ黄金聖闘士としてなすべき使命があるのだ、といった。
 私たちは興奮した。数百年ぶりに地上に降り立ったアテナに何の奉公も出来ぬまま朽ちてしまうのではなく、まだ何か出来ることがあるのだと言う。
 そのためには、冥王に忠誠を誓い冥闘士となる必要がある、と聞かされたときにも迷わなかった。どうせアテナに逆らった逆賊の身だ、今更黄金聖闘士の矜恃も何もあったものではない。それよりは、この身を有効に使いたい。

 サガやカミュがそう喜んでいる横で、彼はまた昏い笑い方をしていた。
 また肉体が手に入るだって? ありがたい話じゃねえか、アテナはどうでもいいが、少しでも長く現世を楽しませてもらうぜ。
 男の笑いに眉をひそめつつぼんやりしていた私は、何時の間にか彼とともに先兵をつとめる役割を振られていた。サガと、そしてシオンの命では逆らうことなど出来はしない。私は仕方なく彼との共同作戦を遂行し、――彼の悪態も露悪的な強がりなのかも知れないなどとよく考えようとした自分を大いに後悔しながら、再びの死を死んだのだった。

 …それでも最後の最後には、私の小宇宙も少しは役に立てたことだろう。
 嘆きの壁での記憶は殆ど思い出せない。きっとそれは、私の走馬燈が終わる予兆なのだろう。
 私は月夜を歩いている。
 もうすぐこの道も終わるのだろう。
 月の光の下を一人歩きながら、最後の時を思い返そうと試みる。彼は、あの時一緒だっただろうか。どうだろう。もう何も思い出せない。全ての記憶を闇にかえして、そして私も――
「...i, belissim...ssai」
 どこかで聴いたような声が聞こえ、私はついと振り向いた、瞬間。

(つづく)

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