「アリオーソ」1
「…同時に私はKが同人を始めた理由を繰り返し繰り返し考えたのです。
その当座は頭がただ萌えの一語で支配されていたせいでもありましょうが、私の観察はむしろ簡単でしかも直線的でした。Kは正しく萌えのために同人デビューしたものとすぐきめてしまったのです。
しかし段々落ち付いた気分で、Kの同人誌に向ってみると、そう容易くは解決が着かないように思われて来ました。ジャンルのメジャーCPとマイCPの衝突、――それでもまだ不充分でした。
私はしまいにKが私のようにマイ神サイトが消失してしまってたった一人で淋しくって仕方がなくなった結果、急に二次創作を始めたのではなかろうかと疑い出しました。そうしてまたぞっとしたのです。私もKの歩いた路を、Kと同じように辿っているのだという予覚が、折々風のように私の胸を横過り始めたからです……
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※蟹魚です。
私は月夜を歩いていた。
暗闇の中、真っ直ぐに続く道を、月の光が細く照らしている。
私はその中を歩いている。
一本道をてくてくと歩きながら、いろいろなことを思い返す。懐かしい北方の国、生まれた朝の日の光。初めてサンクチュアリを訪れて目にした、並み居る聖闘士たちの聖衣のきらめき。その後長い間――私が最初の死を死ぬまで、日々丹精した薔薇たちのつややかさ。
随分意識的な回想ではあるが、おそらくこれがあの走馬灯というものなのだろう。――そういえば、あの青銅とまみえた時も、冥闘士となり果て嘆きの壁に参集した折にも、走馬灯など見なかった。今度こそ本当に、これが最後になるのかもしれない。
記憶のひとひらひとひらが、きらきらと光って現れては消え去っていく。そしてきっと、私の手には二度とは戻ってこない。大切な記憶たちを見送りながら、私は一向に現れてくれない男の姿を探していた。影のような闇のような、あのどこか薄暗い男は、私の思い出の中にはほとんど居ないも同然だった。時折黒い姿をさっと閃かせては、またすぐに消えてしまう。私は少し失望しながら、同時に諦めも感じていた。なにしろ生前、いや死んでからもだが、彼と私にはさしたる接点もなかったのだ。
(つづく)