恋は桃色
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影になった木々を透かして見える夕映えの見事さに、思わず息を呑んだ。目を開いた途端の不意打ちでもあった。
薄紅に淡く立つ校舎の向こう、紅葉を待たずに金色に照り映える山の向こう、夕日によって無段階に惜しみなく階調を変えた空。
この彩りは、鮮やかさは、対照は、東京の生活では見たことのないものだった。だから──けれど見覚えのある──ここは、この風景は。
祠堂の寮裏手の雑木林だ。ギイと、何度か散策したことがある。
あの頃のようにギイは少し先を歩いていて、けれど時折振り返っては幸せそうに微笑んでいる。その表情は明らかに自分の知っていたものとは違って、もっと親密な関係を感じさせるものだった。
やはりこれは、自分自身の願望なのだろうか?
そんなことを考えていて歩みが遅れたのだろうか、少し距離が開いた、と思ったら不意にまた距離が近づいて、キスされた。
「もう、誰かに見られでもしたら……」
「いつも誰も来ないだろ」
それはそうなのだけど、確かにかつて、この辺りを散策していて人とすれ違ったことはなかったのだけれど。
夢の中でも、そうなのだろうか?


(don't you see it in my eyes?)

「託生くん……体調でも、悪い?」
「はい、や、いえ、……このところ、あまり眠れなくて」
しばらくぶりに会った佐智に心配されてしまい、託生は言葉を濁した。けれど思い直し、すべて正直に曝け出してしまおうかという気持ちになった。
「あの、佐智さん。変な話をしてもいいですか?」
「どうしたの、構わないよ?」
「……実は、ここのところ、毎晩。その……夢を、見るんです」
「夢?」
「はい……高校の頃の夢なんです」
「そう」
首を傾げ、佐智は少し考える。
「もしかして、義一くんの夢?」
答えられず、けれど泳いでしまった視線と赤くなった頬で、佐智にはわかってしまったことだろう。
佐智はそれをからかうでもなく、まだ何かを考えているようだった。
「託生くん、日付はわかる?」
「え? 今日の、ですか?」
「じゃなくて、夢の中の日付」
「夢の?」
「そう。高校の、二年生の頃じゃない? 秋口頃?」
「あ……言われてみれば、そうかもしれません」
託生は素直に頷くと、考えながら口を開いた。
「……そういえば、秋っぽかったけど、まだ夏服だったかな? 九月かも?」
託生の答えに、佐智はふっと微笑んだ。
「託生くん、たぶんだけど、義一くんも同じ『夢』を見ているんだと思うよ」
「え?」
何を根拠にそういうのかはわからなかったけれど、佐智は確信しているかのようにしっかりと頷いた。
「そうだったら、嬉しいですけど……でも、そんな都合のいいことって、あるのかな」
「そういうものだよ、どうせ夢なのだから、わがままを言ってあげたらいいよ」





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