恋は桃色
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「馬鹿だな、託生」
 …………
「ギイ……?」
「だって、そんなことは最初から分かってたじゃんか」
「……はい?」

 ……ん?
 なんだか……失礼なことをいわれたのでは、なかろうか
 なみだが、いっしゅんでどこかへいってしまった
「ギイ……あの、それって」
「託生だって、自分で言ってただろ。『葉山託生』とは違うんだって。彼は勉強も運動も得意で、託生とは全然違ってたって、オレだってよく知ってる。だから」
 ギイは苦笑してよこのつくえにてをつくと、椅子にかけたままのぼくをのぞきこんだ
「『葉山託生』の再現ってことなら、最初から失敗なんだよ。葉山博士が、なぜ今更失敗だの欠陥だのって言い出したのか、オレには正直よくわからない。」
 ……なるほど
 ……いや、ちがう、なっとくしそうになってしまったけど、
「で、でもギイ、たしかにぼくは不出来だけどね、記憶がなくなっていくっていうのは、ちょっと、不出来っていえる程度じゃ、ないよ、やっぱり」
「言っただろ、忘れっぽいんだよ、お前」
「な……」
 なんですと。
「あ、あのね、ギイ、そういう問題じゃ……」
「そういう『個性的な機械』なんだって、言ったじゃんか」
 そうだっけ?
「けど、オレまで忘れられちゃ困るから、だから」
 ギイはすっとてをさしだして、不敵にほほえんだ。
「だから、もう絶対忘れないように、魔法をかけてやる」
「え?」
「手をとって」
 わけがわからず、いわれるままにギイのてにてをのせると、つよいちからでひっぱられる。
「わっ、……あぶないじゃないか」
「ほら、立って……オレのところまで来いよ」
 しかたなく、ギイにてをあずけたまま、ギイのまえにたつ。
「託生」
「うん?」
「託生、オレが好きか?」
 ……なんだか、まえにもこんなことがあったようなきがする。
「……ギイ」
 なぜか、は、もうおもいだせない。
 けど、この機械のからだのそこらじゅうが、ギイがすきだとこたえたがっている。
 そうこたえて、いいんだろうか。
「ギイ」
 わからない。
 でも、
 かわりたいと、そう思ったんだ。きみのために。ぼくのために。
「きみが……すきだ」
「託生、それでいい」
 ギイはまたわらって、そのまま……
 ぼくに……

 ……これって、キス?
 もしかして、もしかしなくても?
 混乱するぼくがおもわず離れようとすると、ぐっとひきよせられてしまう。ギイのうでにつよく抱かれて、ますます混乱するぼくに、ギイのキスと一緒に、たくさんの色や音が怒涛のように流れ込んできた。


――――――――――光――――――放課後の教室――――水にぬれた朝顔のはち――麻生さんのつくってくれたりんごのケーキ――――お年玉のはいった袋―――――はじめての運動会――――図工で使った絵具入れ――家の庭の柿の木――研究所の壁のキズ――――博士――――――――――兄さん――兄さん…――――


「あ……」


――庭に植わっていたつつじ――――――――夕陽を受けて歩く廊下――――英語のテキスト――――――――雪の夜の静かさ――図書室のカウンター――――――――幼稚園の黄色いすべり台――――祠堂の前の桜並木――――――――風にまう、桜のはなびら――


「おい、……託生?」


栗色の髪――――――シトラスソーダのアイスクリーム――――――――――――――――ギ


「……ギイ」


「託生?」
「ギイ……からだが、あつい」
「大丈夫か? 麻生さんが近くまで来ているから、今連絡を……」
 ギイが手を放そうとした瞬間、ぼくは思わずその腕にすがってしまった。
「ギイ……いかないで、そばにいて、お願い」
「……どこにも行きやしないよ」
 ギイはぎゅっと、ぼくの身体を抱きしめてくれた。













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