恋は桃色
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 ――ふときがつくと、ぼくは校舎のまえにたっていた
 あたりにひとけがないのは、どうしてだろう
 グラウンドのほうからは、運動部のものらしきこえやものおとがきこえるので、ほうかごなのかもしれない
 ぼくは校舎にはいり、いつもの教室へとむかった
 なぜか、教室のばしょはおぼえている
 それはたぶん、あたまではなくからだのきおくとして、まいにちの動作としておぼえているんだろう。
 日常動作はわすれないように。
 ほとんどむいしきに、ここまでこられたように
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 教室にはいると、放課後とはいえいつもよりも静かにかんじられた
 ……ぼくは、どうしてここにいるんだっけ?
 することもないのでいすにすわり、携帯電話をひらいてみると、今日はにちようびだった
 にちようびでも学校はあいているんだな、とおもいながら、たくさんの着信があることにきがついた
 麻生、というなまえがいっぱい……あそう……麻生さん……
 ……そうだ。
 おもいだした。
 ぼくは、だまって研究所をでてきてしまったんだった。
 そう、ぼくはバイオロイドなんだった。
 はかせは……博士が、ぼくを「欠陥品だった」といった。
 「欠陥品」……けっかんひん。しっぱいさく、できそこない……
 博士がそうおもったのなら、きっとぼくはもういらなくなる
 きっと、そうとおくないうちに「破棄」されることになる
 それは、しかたのないことなんだろうけれど、……いやだ。
 そうだ……ぼくは、「破棄」がこわくて、研究所を抜け出したんだった
 でも、……どうして?
 どうして「破棄」がこわいんだろう?
 「破棄」、ということばをおもいうかべたことで、ひとつだけおもいだしたことがある。
 あそうさん……麻生さん、が、いっていた
 ずいぶんまえ、記憶がなくなりはじめるよりもまえ
 博士が、ぼくを「破棄」する場合についてはなしていたとき、麻生さんはすごく反対してた
 なんでも、「破棄」されると、ぼくの「記憶」や「意識」がなくなってしまう、らしい
 あのとき麻生さんは、それだけはやめてほしいっていっていた
 でも……いまは、どうだろうか。
 記憶なら、いまだってどんどんきえていっている
 ぼくにとっては、いまとかわらないんじゃないかとおもうのに
 なのに、「破棄」はこわい。


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 ……まどからはいるひかりが きらきら きらきらしている

 ごごの日をうけて きらきらしていた……

 きらきらしていた 栗いろの髪の あのひとは

 ――託生とこうして話をしたりしてると、オレはすごく幸せな気分になる。託生がオレにくれる言葉が、表情が、どんなものであれオレの心を動かすんだ

 そういってくれた

 あのひとは……麻生さんだけではなく あのひとも ぼくが「破棄」されたらかなしむんじゃないだろうか

 それに ぼくだって

 ――君のことが知りたいんだ

 だから、わすれてしまいたくない
 彼が、ぼくをすきだといってくれたから
 そしてぼくも、彼――ギイのことを、すきになったから


 だから、変われるような気がした――変わりたいと、思ったんだ
 けれど……

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「託生!」

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「託生?」

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 ……え?


「……ギイ?」


 ふとかおをあげると、日の光をあびて、ギイが立っていた
 ぼくとめがあうと、ギイはふわっとほほえんで、すこしくびをかしげた
「よかった、まだ覚えてるな?」
 ……ううん、今思い出したんだ。
「麻生さんに話を聞いて、探しに来たんだ。託生」
 麻生さんに……それじゃあ、
「ギイ」
「なんだ?」
「ごめんね。ぼく……「欠陥品」だった、みたい」
 たぶん、もう、麻生さんに、きいてしまっただろうけど
 ギイには、しられたくなかったことだけど
「ごめんね……」
 そうだ。
 きみが、ぼくのことを、すきだと、そういってくれたのに
 ぼくなんかのことを、すきだといってくれたのに、しっぱいさくだったなんて、「破棄」されることになるなんて
 おもわずなみだがこぼれそうになったとき、ギイがぷっとふきだした。













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