恋は桃色
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 コンビニで買い物を済ませ、まだ申し訳なさそうにしている島岡さんに見送られて、義一くんとぼくは家路についた。
 ぼくはふたたびこそこそと、義一くんの部屋にしのびこむ。義一くんは家の人としばらくやりとりをしてから戻ってきた。
 簡単に就寝準備をして、床ででも寝させてもらおうと、ぼくは義一くんを振り返った。
「えっと、予備のブランケットとか、あるかな。下で寝ようと思うんだけど」
「そんな、託生さん、床なんてだめですよ。ぼくのベッドで、一緒に寝てください」
「……えっ! いや、それは悪いよ、狭いだろう」
「大丈夫ですよ、このベッド、セミダブルサイズなんです。ぼく、寝相がよくないみたいで、大きいのを買ってもらったので」
「そ、そうなんだ」
 ついつい、ギイに言われた、「浮気するなよ」という愚かな言葉をちらりと思い出す。
 そんなはず、まったくないんだけど、けど! ギイのせいで、馬鹿みたいに意識してしまう……恥ずかしいなあ、もう、こんなに小さい義一くんなのに。
 心なしか緊張して、義一くんの隣にもぐりこませてもらうと、ベッドには十分な余裕があって少しほっとした。枕の上に肘をのせて、うつぶせで並んで笑いあうと、合宿か、修学旅行……じゃない、お泊り保育、でもないか、なんだろう、ちょっと楽しい。
 義一くんはすこし目線をはずしてから、改まってこちらを見上げた。
「託生さん、さっきはすみませんでした」
「さっき?」
 ……何かあったっけ?
「島岡さんに、託生さんとは会って間もないけど、未来のぼくは信じている、なんて言ってしまって」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたね……それが、どうしたんだい?」
「託生さんを信頼していないみたいな言い方をしてしまって、すみません」
「なんだ、そんなこと。義一くんの言ったことは、当たり前のことじゃないか」
「でも、ぼくはちゃんと託生さんのことも信じてるって、思っていただきたくて。託生さんが未来のぼくをすごく信頼してくださっているのはよくわかりましたたし、それなら、ぼくも託生さんを信じていいんだと思えたんです。それに、それこそ会って間もないですけど、ぼくは託生さんと一緒にいて、すごく自然な感じがするんです。こんな時になんですが、とても楽しいし」
 それは、ぼくもだ。いってみれば緊急事態なのだけれど、なんだか楽しい。義一くんはしっかりもので、かわいいし。
「だから、託生さんのことは、無条件に信じたい……信じられると、思うんです」
「君がそう思ってくれたのなら、うれしいな」
 ぼくがそう返すと、義一くんは安心したように微笑んで、また少し視線をはずした。
「未来のことは、あまり聞かない方がいいとは思うんですけど、でも」
 そこで言葉を切って、少しためらいながらいう。
「未来のぼくは、託生さんと友達になれるんですよね」
 ……友達、でもあるかなあ。
 すぐに返事が出来なかったぼくを、義一くんが怪訝そうな顔でのぞき込むので、ぼくはあわてて頷いた。けれども不安にさせてしまったようで、義一くんは少し悲しそうな顔をした。
「……もしかして、ずいぶんご迷惑をおかけしていたりするんですか、未来のぼくって。託生さんを勝手に過去に送ったりなんてしているみたいですし」
「あ、迷惑だなんてそんなこと、ないよ、ほんとに。それは、ギイにはよく振り回されているけど、いつも助けてもらってるし、感謝してるんだ」
「そうですか?」
 義一くんはほっとした顔で、にっこりほほ笑んだ。
「よかった……託生さんに、嫌われてるんじゃなくて」
「嫌いだなんて、そんなこと」
 ぼくはあわてて、義一くんの顔を覗き込んだ。
「ないよ、絶対。ぼくはギイのこと、好きだからね」
 本心と、うわべの意味とをかさねて、ぼくはどちらも本気でそう言った。
「そういっていただけて、安心しました。未来のことは、あまり知らないほうがいいとは思うんですけど……でも十年後には託生さんにまた会える、託生さんみたいな素敵な友人ができるんだって分かっただけでも、すごく楽しみだし、心強いです」
 ぼくなんかの存在ひとつで、そんな風にいってくれるなんて。
 義一くんの言葉は、幼い顔に不似合いすぎて、その内容はあまりに健気で、ぼくはせつなくなった。
 幼いギイは、もしかしたら、ぼくが思っている以上に苦労をしていたのかもしれない。それに、今の、ぼくと同じ年のギイからは考えられないくらいに、生真面目で折り目正しい、その理由も気になる。ぼくは小さな義一くんと、そして今はここに居ない、ぼくのギイとが、なんだか少し悲しく、とてもいとおしくなってしまった。
 そっと小さな肩を抱いて、彼の髪に頬をよせてみた。ギイよりもまだ明るい、日なたのたんぽぽのような金色の髪。あの不思議な甘い花の香りのしない、シャンプーだけの匂い。
「明日まで、だけれど。ぼくでよければ、甘えていいんだからね」
「……あの、それじゃあ」
「うん?」
「やってみたかったことが、あるんです」
「なに? なんでも、言ってみてよ」
 義一くんはぼくを見上げて、目をきらきらさせた。
「夜更かし、つきあっていただいてもいいですか?」



 結局、夜遅くまでゲームやカードに付き合って。……ぼくは義一くんに、こてんぱんに負けてしまった。うう。























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