恋は桃色
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 夕食は、近所のファミレスで簡単に済ませることにしたのだけれど、少々、好奇の視線を浴びたような気がした。高校生と小学生、しかも片方は明らかにハーフっぽい、や、本当はハーフではないのだけれど、とにかく、金髪美形の小学生。兄弟にも見えないだろうから、どういう関係かとか思われるのも仕方がないのかも。そこで義一くんが支払いをするのはますます怪しいだろうということになり、ぼくが彼の財布を預かって、支払いを済ませた。
 けれど、ファミレスから出て、人気の少ない道に出たところで、怪しげな男性二人組に絡まれてしまった。
「君たち、ちょっといいかな」
「こういうものだけど」
 ちらっと見せてすぐにしまった手帳は、おそらくは警察手帳だ。
 本物であれば――まあ、偽物だったら重罪だそうなので、きっと本物だろう、彼らは私服警官ということになる。
「こんな時間に、子供二人で何をしているのかな」
 わ、これって……補導、だろうか?
 怪しく見えるだろうと思ってはいたけれど、ここまでは考えていなかった。想定していなかった事態に、一瞬ひるんでしまう。でも、どうみても年長なのだから、ぼくが答えなきゃ。
「あの、親戚のこの子をつれて、食事していただけです。家の大人が出払っていたので」
「親戚……?」
 うう、怪しいかな。
「君たちの関係を証明できるものってあるのかな?」
 なんと。そんなもの、あるわけない。たとえ、本当に親戚だろうと。
 どうしてこんなに追求するんだろうと、思わず義一くんと顔を見合わせると、警官の一人が声音を変えた。
「実はね、君がよその子どもを連れまわしているという通報があったんだよ」
「え? ぼくが、ですか」
 本心から驚いて顔を上げると、警官は頷いて、首を傾げた。
「君、何か、身分証明書を持っているかな?」
 まずい、見せられるようなものはないぞ……未来の保険証や生徒証なんて、ますます怪しいだけだ。
「あの」
 それまで黙っていた義一くんが口をひらいたので、三人の視線は一斉に小さな彼の方に向いた。
「ぼくのお父さんに、電話、しましょうか」
 すこし幼げな話し方……お父さん、だなんて、彼だったら「父」といいそうなのに。もしかして、あえて子どもらしく話している、のかも。
 おそらく案の定、なのだろう、警官たちは腰をかがめて、にこにこと義一くんに話しかけた。雰囲気がやわらかくなったみたいだ。
「お、ボク、お父さんに連絡つくのかな」
「はい。お父さん、今、仕事でニューヨークに居るんです」
 義一くんはにっこりと頷いて、携帯電話を取り出した。もちろんというか、いわゆるガラケー、だ。それでも、この時代に、ニューヨークまで簡単につながってしまうというのは、やはりさすがは義一くんの携帯電話、だからなのだろう。警察の人も、少し驚いているように見える。
「お父さん、東京の義一です。『また従兄』の託生さんに食事に連れて行ってもらったんですけど、警察のひとに聴かれたので、お父さんに電話しました。……ええ、はい。……はい、昨日行きました……有楽町に……そうです。……はい、お願いします」
 義一くんは携帯電話を耳から話すと、近い方の警官ににっこりとそれを差し出した。
「警察のひとにかわるように、言われました」
「お、そうかい。……あ、どうも、警視庁生活安全部の川田と申します。はい……はい、ええ」
 警官はいくつかのやりとりをして、メモをしたり、しばらく話したのちに携帯電話を義一君に返した。
「確認がとれたよ、大丈夫」
「よかったです」
 とはいえ、早めに家に戻るようにと注意を受け、やっと解放された。
 ぼくはほっとして、彼らから充分に距離をとってから、義一くんに小声で囁いた。
「ありがとう、義一くん。君の助け船がなかったら、危ないところだったよ」
「ぼくたちの話だけでは信じてもらえそうになかったし、託生さんが未来人だとバレるのもまずいですもんね。父がすぐに出てくれてよかったです」
「電話の相手、本当にお父さんだったんだ」
「はい。こういうときは、ウソは最小限にしたほうがいいと思ったので。あの番号は、父との緊急用回線なんです」
「お父さんも、よく話を合わせてくれたね」
「普段の回線じゃなくて、わざわざあの回線を使うときは、途中で、いくつか合言葉で確認するんですよ。その中で、話を合わせてほしい時の合言葉もあるので、それで父に伝えました」
「……なんというか、すごいね」
 緊急時の対策が、ばっちりできているのだろう。
 こういう時はちょっと、ギイの育った環境に思いを馳せてしまう。
「なんにせよ、彼らのいうとおり、早く家に戻りましょう」
「そうだね、何があるかわからないものね。あ、でもコンビニには寄りたいな」
「そうですね、賛成です」
 途中のコンビニエンスストアに寄ると、義一くんは少しためらってからお菓子の棚を見に行った。こういうところは子どもらしいなあ、とほほえましく見て、ぼくは必要なものを選ぼうと日用品の棚の前に立つと、すぐ横に男が立った。あまりに距離が近いのでそちらを見ると、大学生くらいの男の人が、ぼくの方をじっと見て、小さな声で話しかけてきた。
「君、葉山くんですね」
「え?」
 ぼくのことを、知っている……?
 動揺していると、更に驚くべきことを彼は言った。
「事情は知っています。十年後から来たのでしょう」























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