恋は桃色
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「では、予定が決まったところで、夕食を食べに出ませんか?」
 義一くんの提案に、ぼくはすぐに賛成した。もう外は暗くなり始めたし、実はだいぶおなかもすきはじめていたのだ。
 ただ、ここの家の人には、ぼくの存在を内緒にしているので、食事は外で調達するしかない。けど、義一くんは一人で外出するみたいな形になってしまうんじゃないかな。
 そんなふうに思っていると、心配が顔に出たのか、義一くんはぼくを安心させるように頷いた。
「家のものには、父の知り合いに会ってくると伝えます」
 それで済んじゃうのか……とは思ったけれど、ぼくにはどうすることもできないので、義一くんの手配に従うことにした。
「それじゃ、お世話になっているお礼に、ぼくが何かご馳走するよ」
「いえ、そんな、それでは申し訳ないです」
「や、ちょうど旅行中だったから、お金もあるし」
 ぼくはポケットから財布を取り出し、中身を確かめた。一人での東京行きだったので、現金をそこそこ入れてあり、ぼくはほっとした。義一くんと二人分の夕食代ぐらい、全然問題ないだけのお金はあった。
 顔を上げると、義一くんはなんともいえない表情でぼくの財布の中を見つめていた。
「託生さん……お札の肖像、変わるんですね」
「えっ」
 義一くんは自分の財布を取り出し、中を見せてくれた。千円紙幣には、懐かしい夏目漱石の肖像が書かれている。見覚えはあるけれど、自分で使った記憶がほとんどないので、ぼくが幼い頃に変わったのだろう。だからたぶん、そろそろ変更になるんだろうな……あ、一万円は同じ、福沢諭吉なんだ。それなら、ぼくのお金も一万円札なら……ダメか。デザインがマイナーチェンジしている。
「あの……生意気なようですが、ぼくが支払いますから……」
「ごめんね、何から何まで」
 この世界では、もうぼくは、義一くんに助けてもらうしかないのだと、改めて痛感してしまう。
 ジャケットをはおり、簡単に身支度を整えながら、ぼくは唯一の手荷物をどうしようかと少し迷った。
「ええと、バイオリン、置いていってもいいのかな」
「はい、ぼくのものと一緒にしておきましょう」
「でも、どっちだかわからなくなっちゃうかも。まあ、同じものだし、どっちでもいいっていえば、いいんだけど」
「そうですね……」
 義一くんは少し考えて、学習机の上から羊のぬいぐるみがついたストラップみたいなものを取り上げた。手のひらにのるサイズのふわふわの白い羊が、にこにこ笑っている。
「ぼくの方には、これをつけておきます」
「かわいいもの、持ってるんだね」
「い、妹にもらったんですよ」
 ぼくが思わずつぶやくと、義一くんは顔を赤くして、言い訳するみたいに言った……う、カワイイぞ。
 こっそり笑っているぼくをちらりと見て、義一くんは片側の口元をあげ、大人っぽく微笑んだ。
「やっぱり、託生さんの方につけさせてもらいますね」
「え! 絵利子ちゃんにもらったものだろう、大事にしなきゃ」
「託生さんなら、大事にしてくださると思うので」
 いけしゃあしゃあ、と、そういうと、義一くんはさっさとぼくが持ってきた方のケースに、羊を取り付けてしまった。
 ……財力でも言葉でも、八才のギイにすら、負けそうである。うう。
























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