!!!!!パラレルというか、ダブルパロディです。
!!!!!元ネタは『真夜中猫王子』です。
!!!!!なので、ギイがネコです。
「まーた葉山がモメてるぜ」
「うっぜえの」
昼休みの教室は、不穏な空気につつまれている。
「ちょっと手がさわっただけじゃないか! そんなに過剰反応することないだろ!」
人だかりのまんなかには、かわいらしい顔を怒りにそめた、高林泉。
「高林、託生はそれが苦手なんだってば」
困った顔でそれを取りなす、片倉利久。
その後ろで、葉山託生はふるふると震えていた。
託生は人に触れられるのが大の苦手だった。今も、プリントをわたしてくれた高林の手が少し触れてしまい、その嫌悪感をこらえるので、精一杯なのだ。
険悪なムードの中に、うんざり顔の赤池章三が割ってはいる。
「高林、そのくらいにしておいてやれよ。次、移動教室だぞ」
「ったく、僕は悪くないんだぞ! もう行こう、吉沢!」
「あ、高林君、待って……」
忠実なしもべの吉沢道雄を引き連れて、ぷりぷりと怒ったまま高林は教室を出て行った。
後に残された章三も、肩をすくめて授業の準備にとりかかり、取り囲んでいたクラスメイトたちも、それぞれの用事に戻っていった。
「大丈夫か、託生」
「……うん」
心配そうに覗き込む利久に、託生はかろうじて答えを返した。けれど、身体はまだふるえがとまらなかった。
「利久、授業はじまっちゃうから、先に行ってて。ぼくは少し休んでいくから」
「大丈夫か? 無理はするなよ」
託生はなんとか頷いて、利久を授業に送り出した。
「どうしてぼくは、うまくやれないのかなあ」
チャイムがなっても、どうしても授業に出る気がせずに、託生にしては珍しくサボタージュをきめこんでいた。
誰もいないのをいいことに、ぶらぶらと校舎の裏の雑木林を散歩する。
「ぼくがこんなせいで、利久には迷惑をかけてばっかりだ。高林くんはすぐに怒らせてしまうし、赤池くんや三洲くんには呆れられてばかりだし」
託生は悲しい気持ちになってしまい、大きなけやきの下で立ち止まり、ため息をついた。と、足下に奇妙なモノが落ちているのに気づく。
「???」
拾い上げると、それはちいさなネコのぬいぐるみだった。
丁度手のひらにおさまるくらいの大きさで、ストラップがついている。
ネコ本体はきんいろの毛並がうつくしく、同じ色の大きな目がきらきらひかっている。
「なんだろう、これ。キーホルダー? 誰かの、落とし物かな」
託生は少し迷ったが、そのひかる目に惹きつけられて、ついついそのままポケットに入れてしまった。
「託生、あんまり気にするなよ。高林は根に持たないやつだから、明日には忘れてるさ」
「ありがとう、利久」
結局サボってしまった授業は、利久がうまくとりなしてくれたらしく、体調不良で欠席扱いになっていた。
その夜顛末をきかされて、託生は利久にお礼を言った。
「先生に不審に思われなかったかい?」
「うん、赤池も口添えしてくれたし」
「赤池くんが?」
「託生がしんどそうにしてるの、見てたからじゃないかな」
託生は意外に思ったけれど、それ以上のことを訊ねる前に、利久はさっさとベッドに入ってしまった。
利久は一度寝てしまうと、直立不動の体勢で、朝まで目覚めない。
託生は仕方なく、宿題を片づけることにした。
「ええと、プリントはどこだったかな」
授業の道具を入れているバッグに手をかけて、きんいろのネコのことを思いだした。
あの後、ポケットからバッグの中に仕舞いなおして、結局遺失物係に渡すのを忘れていたのだ。
ため息をつきながらバッグをひらくと、中から大きなモノが飛び出してきた。
「ええっ!?」
ぶるりと身体をふるわせたソレを、託生はまじまじと見つめた。
「ネコだ」
普通のネコの大きさになったソレは、確かにあのきんいろのネコだ。
「あー、狭かった!」
ネコが、しゃべった!
驚きのあまり、言葉もなく見守っていると、きんいろのしゃべるネコはおもむろに後ろ足で立ち上がり、ジジジと音をさせて胸元のジッパーをひきさげた。
ネコの皮の下からは、かわいらしい金髪の少年がひょっこりと顔を覗かせた。
「呪いのネコ人間」
「誰のことだ!」
ぽつりと呟いた託生の言葉に、ネコは怒って叫んだ。
だが、あっけにとられたままの託生を見ると、こほん、と咳払いをしておもむろに話し出した。
「オレはな」
「う、うん」
「向こうの世界の王子なんだ」
「む、むこうの世界」
「クーデターが起こってだな、政敵のわるい魔法使いに、呪いをかけられちまったんだ」
「のろい」
「おかげで昼は人形、夜はネコの姿でうごけるものの着ぐるみ、という情けないことになってんだ」
確かに、情けない。
ネコのきぐるみ姿で、クーデターだの王子だのと言われても、全然ピンと来ない。
それに、異世界なんて、想像もつかない。
託生はあたまがくらくらする思いがした。
「えっと、元の世界にもどるには、どうすればいいんだい?」
「わからん……だが、何とかして方法を探すつもりだ」
王子は難しい顔で、そう言った。
「でも、どうやって?」
託生はつい、首をかしげてしまう。
彼は、昼間は動きの取れない人形で、夜はネコの着ぐるみという状態で。
何とかしてといっても、何ともなりそうもない。
「どうにかするさ。情けない状況だが、なんとかして人間になって、元の世界に戻って、敵を倒す! だからお前……ええと、名を訊いてなかったな」
「あ、ぼく、葉山託生」
「託生か、いい名前だな。それでな、オレに協力してくれないか、託生」
「え、ええと……」
いきなりそんなことを言われても、困ってしまう。
おろおろしている託生を、王子はきりっとした表情で、じっと見つめた。
「オレにはお前の力が必要なんだ。頼む」
王子はそう言って、ちいさい手で託生の手をきゅっと握った。
(あ、あったかい……
着ぐるみながらも、その感触はネコそのもので、肉球のふよふよした感触が心地よかった。
(あれ?
託生はふと、その事実に気づいた。
ネコだけど、王子は人間なのに。さわられても、不快ではないのだ。
(ネコだからかな?
託生は首をかしげて、王子に手をとられたまま、その顔を覗き込んだ。
「えっと、王子」
「ギイでいい」
「それが、名前?」
「本名じゃない。本当の名前も、あるにはあるが……どうしても聞きたいか?」
「え、いや、別に」
「オレの名前には、簡単に語ることの出来ない、ふかーい秘密があるんだが、託生になら教えても」
「や、いいです、聞きたくないです」
「そうかあ? ほんっとにいいのか?」
妙に残念そうな王子に、託生は思わず微笑んだ。
きらきら光る王子のきんいろの髪と瞳を見ていると、なんだか心が軽くなってくる。
王子が触れている手のひらからも、あたたかい体温がつたわってくる。
それが心地よくて、託生の心は、きらきら、ふわふわ、いい気持ちになってくる。
王子の目をじっと見つめ返して、託生は心を決めた。
「協力するよ、ギイ。君が元の世界に帰るために」
その2へ
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