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[ 雑感/日常 ]

映画『アンダーグラウンド』

 リマスター版をシアターNで観てきました。映画に詳しい同僚から絶対みたほうがいいよ!と言われて、上映期間も延長されたし、なんとか時間をつくったのです。

 第二次大戦下のセルビアで、パルチザンの活動をし(つつ裏でなんやかやもし)てるマルコとクロは、クロが惚れた女優のナタリアを誘拐したりなんだりしてたのだけど、マルコが(ナタリアに横恋慕して)クロをいいくるめて地下の避難所(というか武器工場)に軟禁する。ナタリアを妻にしてユーゴのパルチザン運動の英雄となったマルコは、地下の人々には戦争が続いていると信じこませながら共産党の要職について、華々しい生活を送って20年の月日が流れたのだけれど、云々。

 …というあらすじが、実はよくわからなくて(笑、カッコ内は後で分かったこととかパンフからの情報なんだけどね(笑。
 なんだろう、いろいろ説明が足りないのかあたしの理解力が足りないのか、お話が結構わからなくって、特に最初のほうはちょっと辛かった。マルコが最初から武器商人だったのもわからなかったし、なんでマルコとナタリアが家を爆破したのかとかもよくわからんかった。
 あとチトーや二次大戦などにかんする記録映像もそこここで使われて、あたしが予期していたよりもずっとメッセージ色の強い映画だった、というのもあるかも。ていうか、たぶんわかりづらかったのは、あたしがユーゴスラビアの歴史にうといせいもあるんだろうなとは思う。ベオグラードはなんでナチスと連合軍と両方から攻撃されてるんだ…と思ったら、すごく複雑なことになっていたのね…。あとあの地下道ってなんなんだろう?フィクショナルな設定…?なの?
 まあそんな感じで、とにかく説明不足なうえにとんでもなく混沌としていて、場面はどんどんうつりかわっていくので、よくわからんまま観てしまった。

 でも、そんな感じだったにもかかわらず、お話が相当不明瞭であった冒頭から、とってもひきこまれてしまった。夜の街路を疾走する物狂おしい男二人の駆る車、その後ろを走って演奏する楽隊という冒頭のシーンが、もうわけがわからないのに魅力的(笑。基本的に絵がとってもあたし好みだったのだろうと思う。
 あとマルコの弟がつとめていた動物園の描写をはじめとして、動物たちが異様なほどに美しいのがすごく不思議で面白かった。弟が相棒にしてたチンパンジーはかわいいし、ラストの牛の群れがドナウを渡るところはすっごくすっごく美しかった。けど、そういう重要な動物ではなくても、たとえば街でばたばたしてるアヒルなんかも、たぶんあまり意味はない登場なのだろうにすごくきれいで、なんだか幻想的でとってもよかった。
 音楽も、冒頭のブラスの曲(↑のユーチューブの映像でも流れてる曲)がすごくうざうるさくって、いい曲だった。これに限らず、そこらじゅうの場面で音楽が流れていて、その上に別の音楽や効果音をどんどん足していくし、登場人物がわめきまくるので、なんだかすっごくうるさい(笑。けど、それがすごくよかった(笑。カオスな雰囲気にとってもあってた。

 役者は、マルコとクロ、ナタリアは数十年のスパンを一人で演じててすごいなあと思った。
 特にナタリアは、女優さんは当時30歳くらい?最初の場面なんて若々しくてすごいかわいかったv後々のアルコールに溺れたナタリアと、老いたナタリアは、ちょっと若すぎるかなとは思ったけどそれぞれに魅力的だった。とにかくころころ表情がかわるのがかわいくて、ついついナタリアばかり見入ってしまう…ていうか、知り合いの姫系男子に似てたんだよなあ…や、表情とかしぐさがね。しかしキャラクラーとしての彼女の心の中がよくわからなくて、パンフの監督の言葉に「うすっぺらい娘」という表現があって、ああそうなんだろうなあ、とは思った。でもこずるくて、優しさもあって、ふつうの人なんだろうなとも思う。結局彼を選んだのは不思議だし、愛してたわけではないだろうし、でも理由はどうあれ最後までそれを貫いたんだろうな、とも思った。
 マルコは大戦下では化粧してた?っぽい?役者さんを若作りするためだろうか…(笑。20年後は年取りすぎてて、クロとの差がすごかった。しかし地上での心労のため、という解釈もできるかも。キャラとしては、最初のあたりではよくわかんなかったけど、この人が一番黒いのね。
 クロは20年後がちょっと若すぎた。最初のあたりは妻が気の毒だなあ、という印象だったんだけど、マルコがひどすぎて後半気の毒になってきたり、あと末尾の内戦下での行動をみてると、よくもわるくもまっすぐで、あと理念ではなく自分の中の感情的な要因でつっぱしる人なんだな、という感じだった。
 まあ三人ともある意味しょうもなくって、戦禍にあったかわいそうな人々…ではないのがよかったと思う。

 そんな感じで、とにかくものすごい音と映像のめくるめくカオスと、三人の男女を中心とするよくわからんキャラクターたちで、三時間近い時間はあっという間だった。すごく疲れたけど(笑。
 そしてそんなカオスの果てに、ラストでは爆撃の中でクロのまわりを炎につつまれた車椅子が回り続ける場面とか、ドナウの岸辺に成立したユートピアの船出とか、物語として感動的でもあり、絵的にもすごくきれいで印象的で、そしてメッセージとしても訴えかけるものがある、なんだか全体に怒涛としかいいようのない、なんというか、化け物じみた映画だった…という印象。グロテスクで美しい、カオスでありかつ筋が通っている、時間(上映時間も作品内時間も)も、おそらく物量もものすごいし、いろいろな意味で大きな怪物みたいだなあ、と思うのです。

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