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[ 二次/星矢 ]

「メロドラマ」8

 薄青い石は大きすぎ、周囲をかざる金属も装飾過多で、繊細さが持ち味のこの石には不釣合いだ。一体デスマスクは、どこでこんなものを見つけてきたのだろう。更に、どう考えてもこれは女物だ。
「む、……これ、これは……」
 アフロディーテはつい妙な声を出してしまい、こほ、と空咳をした。
「…… きれいだ」
 少なくとも、石の色は。
 いや、石自体は相当によいものだろうと思われた。冗談や酔狂で買えるような値段ではないはずだ。それに、南海の色をしたアクアマリンは、アフロディーテの眸の色にも似ていた。アフロディーテはそっと指輪を取り上げると、水色の石にきらきらと光を反射させた。
「これは、わたしの誕生石なのだ」
「知ってる。おれはそういうのわからねえから、ムウに聞いた」
 見上げれば、デスマスクは神妙な面持ちでアフロディーテの反応を伺っていた。
「デス……」
 アフロディーテは立ち上がり、膝からナプキンが滑り落ちた。
「デス、デスマスク。ありがとう。すごくうれしい」
 指輪を握りしめたまま、彼の肩にしがみつく。おずおずと腕が背中にまわされて、催促するようにジャケットの襟をひっぱると、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。アフロディーテは広い胸に頬ずりをして、ぎゅっと彼の背に腕をまわして抱き返した。
「なんで泣くんだよ」
「……大好きだ」

 ぱちぱち、と控えめな拍手の音が耳に届いたかと思うと、やがてそこらじゅうからさざめくような喝采が起こった。涙を指で払って店内を見わたせば、リストランテの中は、スタンディングオベーションの様相だった。客も店員も、クオーコまで厨房から出てきて、誰もかれもがこちらに向かって柔らかい微笑みを送り、手をたたいているのだ。
「これは……」
「アウグーリ、そしてグラツィエ。素敵なドゥランマ・リリコを見せていただきました」
 すぐ隣りのテーブルから、落ち着き払った声が聞こえた。振り返れば、妻らしき婦人を連れた初老の男が、満面の笑みを浮かべてアフロディーテに話しかけていた。
 アフロディーテは恥ずかしくなって、デスマスクの胸に手をおいたまま一歩離れた。きょろきょろと周囲を見回すと、先程美女を抱きしめていた伊達男が、頬を赤黒く変色させてこちらに拍手を送っているのが目に入った。女の姿は見当たらない。あの色では、おそらく平手ではなく拳の仕業であったことだろう。ともあれ、アフロディーテがデスマスクしか目に入っていなかった間に、何らかのどんでん返しがあったらしい。
 一体男と女の間に、どのような会話がかわされたのだろうか? きっとあの後、どうしようもない陳腐でくだらないやり取りが更にくり返されたのだろう。きっと、そういうものなのだ。
 アフロディーテはそう考え、てのひらの中のアクアマリンに目をおとした。
 たいそう趣味の悪い、そしてとても美しい指輪だ。それでいいのだ。そういう物語なのだ。デスマスクが本当はどう思っているのか、何を考えているのか。それは永久にわからない。けれど――
「今日は、最高の誕生日だ」
 きっと、そういうものなのだ。
 アフロディーテは顔をあげ、いとしい男の目をしっかりみつめ、そしてにっこり微笑んだ。


ーーー
 …オノマトペから小説始めちゃ行けないって、編集長の授業で言ってたっけ(笑
 なんかあたしの書くデスマスクはすごく違う…なんかただの不器用人間だな…もっとダメ人間じゃなくっちゃ…!ていうか、タクミくんに慣れてきてしまった最近では、デスアフロが一番書いてて恥ずかしい…!

 ところであたしは基本的に一次創作ができないので、もっぱら二次創作になるわけですが、自分が面白くないものというか、まあより正確に言えば、自分が萌えないものを書いちゃいけないんだな、と最近(といってもここ数年単位ですけど)やっと気づいてなんかいろいろ腑に落ちた。きっと一次創作も同じなんだろうな。
 そしてそれってつまり、恥ずかしい場面も書かなきゃいけないってことなんだなあと思うのです。

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