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[ 二次/星矢 ]

「メロドラマ」4

 今日はアフロディーテの誕生日だった。
 誕生日を祝ってほしいと言ったら、デスマスクはしばらく妙な顔をしていた。自分からお祝いを要求するなど、流石に厚かましかっただろうかとはらはらしていると、何をしてほしいんだと問い返された。嫌味のつもりではなく、それは単に男が誰かの誕生日を祝ったことも、自分のそれを祝ってもらったこともないからなのだった。アフロディーテはしばし考えた末、男の生まれ故郷の島にある有名なリストランテの名前をあげた。以前テレビで見て以来、一度は訪れてみたいと思っていた店だった。男は軽く頷いて、今日のディナーをセッティングしてくれたのだった。
 今日の午後、いつも通り洒落ていて、いつもより少しストイックな、そして当然ながらイタリア製のスーツできめて、デスマスクはアフロディーテを迎えに来てくれた。
 リストランテは評判通り、料理は旨く、ワインもよいものを揃えていて、雰囲気のある内装もサービスも申し分なかった。そしてデスマスクは、ディナーの間中、いつも通りよく気を配ってくれた。アフロディーテの希望を聞いて、すべてその通りに差配してくれて、だから文句のつけようがない、理想的な誕生日の夜だった。
 だから、アフロディーテはここしばらく考えていたことを、実行に移すことを心に決めた。

  恋人にしてくれるとは言ったけれど、デスマスクは自分から動くことはなかった。けれど最初に宣言した通り、アフロディーテが言った通りに彼はなんでもしてくれた。だからそれがうれしくて、ついつい甘えてしまった。当たり前の恋人同士のようにデートをしてもらえばうれしくて、けれど別れたあとはいつも虚しくなった。なぜ彼が自分のわがままに付き合ってくれるのかもわからなかった。
 本当なら、嫌われたり飽きられたりする前に、潔く身を引きたかった。もう十分だと礼を言って、彼を開放すべきだと思った。まるで夢のような時間がうれしくて、あと少しと思ってずるずると日を過ごしてしまったのだ。
 自分の誕生日までこうして一緒に過ごしてもらって、申し分のないデートをしてもらって、だからきっともう十分なはずだった。これ以上わがままを言ってはいけないと、アフロディーテはそう思った。彼の方からアフロディーテを欲っしてほしいなどというのはしてはならない要求だし、願っても無駄なことだ。人の心までは願えないことは、よくわかっている。

(つづく)

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