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[ 二次/いろいろ ]

「眼鏡人伝」その1

 マヨイガプレゼンツ、
 おお振り×フジミ×医龍、そして中島敦。
 「眼鏡人伝」その1


 さいたまの西浦和の高校に通う花井という男が、天下第一のメガネ男子になろうと志を立てた。己の師と頼むべき人物を物色するに、当今メガネをかけては、メガネバイオリニスト・守村悠季に及ぶ者があろうとは思われぬ。メガネをかけてバイオリンを弾くに百発百中で男を落すという達人だそうである。花井ははるばる守村をたずねて東京都某市富士見二丁目に向かった。

 守村は新入の弟子に、「まずメガネで微笑むことを学びなよ」と命じた。花井は西浦に帰り、野球部エースの三橋の前で、メガネをして微笑んでみた。反応のわかりやすい三橋からアタックしてみようという工夫である。理由を知らない三橋は大いに驚いた。第一、妙な笑顔を妙なメガネのキャプテンに繰り出されても困るという。いやがる三橋を花井は叱りつけて、無理にモーションを掛け続けた。来る日も来る日も彼はメガネで微笑んで、三橋を落とす修練を重ねる。

 二月の後には、三橋も「メ、メガネの、花井くんも、かっこいい!」と言うようになった。彼はようやく三橋を落とした。もはや、西浦ナインの皆がメガネの花井にメロメロになっていた。不意に部員に会おうとも、ちょっとイライラしていようとも、彼は決して微笑みをたやさない。彼のメガネはもはや掛けっぱなしで、夜、熟睡している時でも、花井のメガネは掛けられたままである。ついに、メガネ姿にシガポが落ちるに及んで、彼はようやく自信を得て、師の守村にこれを告げた。

 それを聞いて守村がいう。「微笑みでモテるだけじゃまだステキメガネには物足りないよ。次には、クールさを学ぼうか。寡黙に澄まして、落ち着いてること泉君のごとく、冷たきこと阿部君のごとくになったら、帰って来て僕に言ってね」、と。

 花井は再び西浦に戻り、プラフレームのメガネをチタンフレームに替えた。そうして、それを掛けて教室でウェルテルとか手にして、終日むっつりして暮らすことにした。毎日毎日彼はウェルテルを見詰める。初め、もちろんそれはポーズに過ぎない。二三日たっても、依然として一ページ目である。ところが、十日余り過ぎると、気のせいか、どうやらそれが面白い本に思えて来た。三月目の終りには、ウェルテルを読み終わっていた。花井が手にする本のタイトルは、次第に移り変る。ゲーテはいつかランボオに変り、鴎外を読んでいたかと思うと、はや、三島由紀夫を読んでいる。花井は根気よく、寡黙に本を読み続けた。その本も何十冊となく取換えられて行く中に、早くも三橋が落ちた。

 ある日ふと気が付くと、三橋がうっとりと花井に見惚れていた。「は、花井くんは、スゴイ!」しめたと、花井は膝を打ち、教室内を見る。彼は我が目を疑った。クラスメイトが尊敬のまなざしで彼を見ていた。女子は頬を染めていた。男子はもじもじと遠巻きに見ている。雀躍して三橋に向きなおった花井がメガネのブリッジを押し上げれば、三橋の心臓は見事にズキュンと音をたてて、しかも瞳はハートマークになっている。

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コメント

 うわあ…。

>やくもさん
むしゃくしゃしてやった。

でも続編楽しみにしてますから!(研修医とか)。

>マリィさん
ありがとうございます!
でもあんまり期待しないでください!
壊れていく一方です。

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