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[ 雑感/日常 ]

「月下の一群」1(小説)

 日の出と日の入りの時刻くらい少なくともここ一ヶ月先くらいまでならば毎日分単位で記憶しているし、それを活かすための電波時計もどこかに忘れてくることはなくきちんと左手首に巻いている。要するに今回の事件の要因はあたしに内在してたものじゃないってことだ。
 寒かった。そしてあたしは寒いのは大の苦手なのだった。
 県道沿いのファミマはたまに回り道をしたときに且つ必要があれば立ち寄るくらいで、今日がその回り道をした日なのであって、手袋を持って出なかった後悔に苛まれているあたしにその明かりが天啓のように見えたという理由で気がつけばその入り口に立っていた。意外なことに「いらっしゃいませ、こんばんはー」かろうじてあたしまで聞こえる程度の挨拶がおくられた。深夜のコンビニらしく惣菜がたくさん並んでいる正面奥の棚をちらりと見やってから、体が温まって思考がもう少しくらいまわるようになるまで暖をとろうと入り口脇の雑誌の棚に向かった。
 店内にはレジにふたりの店員と、そしてあたしと同じようにあたしよりも以前から雑誌棚の前に陣取っている漫画雑誌を繰る推定学生男子、カゴに文具や菓子や飲料を入れてはふらふら什器の間をさまよう年齢不詳男子、以上の人員配置があった。そろそろ明け方と呼べる時間帯だからこんなものだろう。あたしは読みたくもない『JJ』のページを十数えるごとに繰りながら店内に流れるファミマ専用ラジオをぼんやり聴いていた。鑑賞していた。三度目の曲紹介に入ったところで、入り口のドアが開く音がきこえた。「いらっ…、○、×○△…ッ!?」
 レジが発狂したというわけではないだろうと心を決め、イヤな予感をいだきつつ、あたしは入り口の辺りを眺め遣った。

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