sideT:
図書室に併設の小さな事務室で、申し送りしていた事務作業について、今日の当番である東くんと峰くんとに説明をすると、要領のいい二人はすぐに把握してくれたようだった。
「じゃ、俺こっちで作業の続きしてるよ。峰、カウンターの方頼む。それと、受付しながらこっちの終わった分の一覧チェックしておいてくれ」
「はい。えっと、昨日までに終わってる分はここまででしたよね?」
一年生の峰くんは、てきぱきと書類をまとめると、図書室の方へ戻っていった。東くんも、早速残りの書類をチェックしはじめる。要領よく人を使い、自分もしっかり働いている。こんな時に、なんだかギイみたいだなって、少しだけ思うのだ。
ぼくは作業の準備をしている東くんをぼんやりと眺めていたけれど、ふと横を見ると、見慣れた書店のマークがついたダンボールの箱に気づいた。
「あれ、もしかして新着本も来てるの?」
「あ、はい」
「東くん、処理の仕方は……」
「いえ、やったことないです」
「そうか、君は今年から入ったんだもんね」
ぼくは時計をちらりと見て、よし、と心を決めた。
「土曜だから、開室は三時までだよね。ぼくが教えるから、今日の閉室後にやっちゃおうか。あ、勿論東くんがよかったらだけど」
「俺は全然暇です。けど、葉山先輩は」
「いいよ、ぼくも超暇だから」
東くんはうれしそうに笑い、ぼくはまた閉室後に来るという約束をして、図書室を後にした。
「あれ、峰くんは」
数時間後に再び訪れた図書室には、東くんが一人居残っていた。
「峰は予定が入っているそうなんで、帰らせました。すみません、作業が増えちゃいますね」
「二人でやれば、そんなにはかからないと思うよ」
広い書見用机を使って本をひろげ、簡単に作業を説明すると、飲み込みのいい東くんは、すぐにぼくよりも手早く作業できるようになってしまった。先輩としては少し情けないけれど、仕方ない。出来る後輩でよかったではないか。
並んで座って作業をしていると、ふと東くんが口を開いた。
「朝、すみませんでした」
「朝?」
何かあったっけ、と首をかしげるぼくに、東くんは困ったような笑顔を返す。
「はい、朝……っていうか、もう昼近かったですけど、食堂で変なこと聞いてしまって」
「ああ」
そう言えば、そんなこともありました。
「というか、変な勘ぐりをしてすみませんでした」
「や、気にしてないよ」
そう言うと、東くんはありがとうございます、とにっこり笑った。
「でも葉山先輩、同性愛に偏見とか嫌悪とかってありますか?」
「や、偏見とかはないと思うけど……どうだろう」
って、そんなものあるわけもないのだけれど。
心の中で自分につっこみつつ、困って目を逸らすと、東くんがくすりと笑った。
「そういう素直なところが、葉山先輩のいいところですよね」
「へ?」
「かわいいです……わかりやすくて」
ななな、何を急に……って、でも、あれ?
「あのね、東くん。先輩に向かってかわいいって、わかりやすいって、それね、褒めてないよ」
「ははは、すみません」
ぼくが怒ってみせると、東くんは笑いながらそう謝った。でも……そんなふうに大人っぽい表情で、無防備に笑わないで欲しい。なんだかますます、ギイに似ているって思ってしまうではないか。
ぼくはこっそり息をついた。ふと見ると、笑みを消した東くんが、ぼくをじっと見詰めていた。
「東くん?」
「俺、先輩が好きです」
6