裏コイモモ
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sideT:

 いつもの、そしていつもとは違う、放課後。
 ぼくは秘密の屋根裏部屋で、ギイと落ち合った。
 三日ぶりのギイだ。どちらからともなく手を取り合い、隙間のないように抱き合って、何度もキスをして。ギイが足りなかった時間を全部埋めて、更に貯金ができるくらいにキスをする。
 そうしてやっと、いつしかとぎれたキスに、目と目を合わせて笑いあう。
「久しぶり、託生」
「うん、ギイ……時間大丈夫? 今日も忙しいんだろう?」
 ギイはちらりと腕時計を確認して、すこし苦笑した。
「あと五分しかない。まったく、危なく話も出来ないところだったな」
 ぼくも一緒に笑うと、ギイは少し体を離して、すまなそうな目でぼくを見た。
「……話どころか、キスもゆっくりできないなんてな」
「文化祭が近いし、しばらくこんな調子になるよね」
「ごめんな。……秋休みにでも、二人でどこかに行こうか」
「ん……行きたいな」
 卒業というカウントダウンが近づくこの秋休みは、正直ちょっと、気が重い。ギイも忙しいだろうし、ぼくも進路のことでいろいろと予定が入っている。だから、秋休みと言っても、ギイは勿論のこと、ぼくも時間がとれるかどうか、全くわからないのだ。わからないけれど、少しでも会えたら、会いたい。願いを込めて、もう一度キスをする。
 長いキスを終えて、ふとギイが思いだしたように言った。
「そうだ、オレ明日、一泊で東京に行ってくるから。日曜の昼頃に帰る予定で」
「仕事?」
「このくそ忙しい時期になあ。親父ももうちょっと考えて欲しいよな」
「そっか、大変だね……気をつけて、行ってきてね」
 去年まで、いつも出掛けにかけていた言葉を、忘れない内に今ストックしてもらう。ギイはぼくを抱きしめる力をまたぎゅっと強めて、低い声を出した。
「オレがいない間に、浮気するなよ」
 ああ、まただ。ギイの心配性に、ぼくはついつい頬がゆるんでしまう。
「笑うなって」
「だって、そんな物好きいないってば。物好きなのは、ギイくらい」
 ギイは訝しげな目でぼくを見ると、これ見よがしに大きなため息をついた。
「お前は本っ当に疎すぎる」
「失礼な」
「事実だ。今日だってなあ、お前の所に昼休みに来てた奴」
「ああ、東くん? 図書委員と文化祭実行委員で一緒なんだ」
「二年だろ? 三年の教室に堂々と入ってくるなんて、図々しいにも程がある」
「そんなことないよ、いい子だよ。仕事も早いし要領いいし、結構親切だし。それに……」
「なんだよ」
「東くん、ギイにちょっと似てる」
「はあ?」
 呆れたようにぼくの顔をつくづくと見詰めていたギイは、はっと気づいたように腕時計を覗き込んだ。
「時間だ」
 ギイは悔しそうに唇を噛むと、教員同席の会議じゃ遅れるわけにいかないよな、とひとりごち、ぼくを振り返ってぐっと睨んだ。
「いいか託生、とにかくお前はもう少し自分のことに気を配れ。オレが居ない間にもし万一何かあったら……」
 ただじゃ置かないからな。
 心配なのか脅迫なのか、よくわからないことを言い置いて、ぼくの頬に軽くキスを送ると、ギイはばたばたと一人出て行ってしまった。
 あっけにとられっぱなしだったぼくも、気を取り直して自分の部屋に帰ることにした。
 屋根裏部屋の扉にナンバーロックをかけながら、ギイに悪かったかな、という後悔が急速にわき起こった。折角ギイに会えたのに、忙しいギイが工面してくれた時間だったのに。ギイを怒らせたままになってしまった。
 でも、悔やんでも、時間は巻き戻らない。言ってしまった言葉は、帰ってこない。
 せめて次に会う時には、つまらない口答えはしないことにしよう。
 ぼくはそう心に決めてくるりと振り返り、階下に人気のないことを確かめてから階段を降りたのだった。
















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