恋は桃色
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「実はオレは、魔法使いなんだよ」
 少しいたずらっぽく、そんなことを言って、ギイはふわりと微笑んだ。






 紛争地域で事件に巻き込まれた、恋人――なのだと、彼は言った――を思って泣いていた玲二のために、ギイとぼくは夜中の談話室でニュースにつきあった。彼の無事が確認できると、ギイは秘密(?)のルートで玲二の恋人から連絡をとりつけて、玲二を安心させてあげたのだった。
 やっと泣き止んだ玲二を部屋まで送って、305に戻りながら、ぼくは心がふわふわと昂揚しているのを感じていた。隣りを歩くギイの顔を覗きこんで、ついついゆるみがちな顔で、えへへと笑ってしまう。
「今日ばっかりは、ギイが恋人で鼻が高かったかも」
 玲二達の事情はよくわからないけれど、だからただのあて推量なのだけれど、それでも今夜、二人はどうしても話さなければならなかったのだろうと、ぼくは思うのだ。だから、ギイのしてあげたことは、彼らにとってきっと必要なことだったのだと、そう思う。
「ギイって、魔法使いなんだ」
「何だよ、託生」
 ギイのジョークを蒸し返したぼくに、ギイは心持ち眉をしかめた。
「ふふ、だって。言いえて妙だなって思って」
 そう言うと、ギイは少し苦笑したようだった。
「オレは魔法の杖を持ってるってだけだ。オレ自身の力じゃないんだよ」
 少し自嘲するようなギイの声音に、ぼくは少しどきりとした。
 ギイは大抵、自分がFグループの御曹司だってことを話題にされるのを、よしとしない。そもそも、御曹司なんて言うと、怒られるのだ。そうしたバックグラウンドを、たとえ賞賛されようと感心されようと関係なく、話題にされること自体を嫌がるのだ。まして、自分の力をあてにしてくるような人間がいたら、きっぱりと拒絶する。
 そんなギイが、玲二のために、自分の名前という力で一本の電話をつないだのは、だから異例のことだったのだ。ギイが玲二に何を頼まれなくても自分から申し出たのは、ギイもぼくと同じように、玲二にとってそれが必要なことなのだと、ぼくよりも早く見抜いていたからこそなのだと思う。
 だから、ギイがそんなふうに自嘲するようなことを言うのは、ちょっと嫌だなと思った。自分のバックグラウンドについてあれこれ言われたくないのはわかるけれど、なんだか淋しい――少なくとも、今夜だけは。
 ぼくが足をとめると、ギイは振り返って首をかしげた。
「どうした?」
「たとえ、ギイの言うとおりだとしても、だよ?」
 ギイは怪訝な顔で、ぼくを見た。ぼくはギイの目をじっと見返して、先をつづける。
「でも、つまりギイは、ちゃんとその使い方を知っているってことなんだよ」
 ギイはしばし目を瞬かせて、ぼくの顔をじっと見つめた。
「そうかな」
「そうなんだよ。しかも、正しい使い方を、ね」
 ギイと同じ境遇にあっても、同じようにそれをきちんと使えるとは限らない。実際、ぼくだったら玲二に何が必要なのか、そのためにはどうすればよいのか、ということを、とっさには考えられなかったと思う。
 魔法の杖は、魔法使いが持たなければ、きっとただの杖なのだ。
 そしてギイは、言うなれば『善き魔法使い』、なのだ。
 魔法を無駄遣いせず、その使い方を間違えない。
 少し考えるようにしていたギイは、ふとぼくの目をみて、ふっと微笑んだ。
「託生がそう言ってくれるんなら、オレもそう思っておくかな」






 その笑顔ひとつに、心はふわりと軽くなって、ぼくは今夜もまた魔法にかかるのだ。





and, I still hangs to magic...





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