恋は桃色
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150000hit御礼企画ですv







 章三と別れてひとりになったぼくは、自分の糸をたぐり続けていた。
 祠堂の敷地内をぐるぐるめぐって、今は食堂の脇まで戻ってきている。
 糸をたぐりながらまわりの様子をうかがってみると、随分赤い糸が少なくなった気がする。みんな、糸をたぐり終わったってことなのか、それとも……。
 たぐった糸は、もう随分な量になっている。人によって糸の長さは違うようだけれど、章三の糸は、これよりも少なかった気がする……ぼくは自分の手元にまきとっている大量の糸を見下ろして、ふうと息をついた。
 きっと、大丈夫、大切な相手につながっている、はず。
 ふと顔をあげると、既に寮の前だった。ぼくの糸は、寮の中へと入っていっている。では、ここがゴール? 戻ってきたということ、かな?
 と、そういえば。
「ギイ、帰ってきたかなあ」
 わからないけれど、でも、少なくとも今朝は、この赤い糸が結ばれた時点では、ギイは寮にいなかったはずだ。
 ぼくは少し迷ったけれど、考えてもわからないものはわからない、と、気を取り直して糸をたぐって寮内に入った。
 靴をぬぎ、残り少なくなった糸の間を抜けて、階段をあがる。二階につくと、糸は廊下へと進んでいた。
 ギイが自室に戻っているかどうかは別として、ギイの部屋にはつながっていないみたいだ。だとしたら、一体どこにたどりつくんだろう……と、考えない考えない。なるべく無心に糸をたぐっていくと、たどり着いた先は270番――ぼくの、自室だった。部屋につながっている糸は一本だけで、ここがゴールであることを示している。
 と、いうことは――ん?
「ま、まさか……み、」
 ……いや、いやいや、待て、待て。三洲は糸を持っていなかったし!
 どきどきしてきた心臓を服の上から無意識におさえて、呼吸をととのえる。
 そっと扉をひらくと、案の定というか、三洲は不在だった。でも、それならこの糸は、一体どこに、何につながっているんだろうか。
 部屋に入って、糸の先を視線で追うと、糸はぼくのクロゼットに入っていっているらしかった。そっとのぞくと、糸はクロゼットの中、いつもの定位置にある、そのケースの中につながっていた。
「これって……」
 ぼくは糸の束を床にまとめておくと、ケースをとりだした。
 朝も、ここに糸がつながっていたのだろうか? 部屋の状況を思い返してはみたけれど、ちょっと記憶に自信がない。ぼくが見落としていたのか、それとも後からつながれたものなのだろうか。不思議な気持ちのまま、ケースの留め金をあげる。
 中には、いつもの通りのギイのバイオリン、大切な大切なストラディバリウスが変わりなく収まっている。けれど、そのペグには、ぼくの赤い糸の端っこが結ばれていた。
「でも、よかった、『相手』が君で」
 そっと茶色いバイオリンを撫でながら、ぼくは安堵で、おもわず頬をゆるめた。
 バイオリンと弓をとりだして構え、ゆっくりと調弦をしながら考えた。何を弾こうか、少し迷って左手だけ運指をしつつ、そのメロディを思いだす。「だったん人の踊り」、ギイが最初にリクエストをくれた曲。
 ゆったりとした、美しいけれどどこか哀愁もただよう第二主題を、ギイを想って丁寧に弾く。
 ストラドのやわらかく豊かな音に導かれるように「だったん人」を弾いて、曲の切れ目まできたところで弓を降ろすと、残響にかぶせるようにぱちぱちと拍手の音が聞こえてきた。
「ブラボー、託生」
「ギイ!?」
 あわてて振り返ると、いつの間にやら、笑顔のギイが立っていた。
「部屋で弾いているなんて、珍しいよな? どうしたんだ、気分転換か?」
「ギイだ、……ほんとに」
「ん?」
 章三の電話のように、このバイオリンが、ギイとぼくをつないでくれる、これって、もしかしてそういうことなのだろうか。
 胸がいっぱいになって、言葉につまっていると、ギイがふと目線を下げた。
「なあ、なんだこの糸?」
 ギイは不思議そうに、ぼくの左手薬指とバイオリンとを結ぶ糸を手にとると、くすりと笑った。
「お前とバイオリン、赤い糸で結ばれてるのか? 随分ロマンチックなんだな、託生」
「ちが、これは……」
 自分で結んだんじゃない、と説明しようとしていると、ギイは少し不服そうな顔をした。
「でも赤い糸ってさ、普通運命の恋人につながってるもんだろ? 託生の赤い糸、オレに返してもらうぞ?」
 ギイはそう言うと、ぼくの持ったままのバイオリンに顔を近づけ、結び目をあらためようとしたので、ぼくはあわてて言い添えた。
「あ、ほどいちゃだめだよ、ギイ」
「どうして」
「だって、このバイオリンが、ギイとぼくをつないでくれるってことなんだよ、たぶん」
 このバイオリンが、ギイを呼び寄せてくれた。
 きっと、これからも、ギイとぼくを結びつけていてくれることだろう。
「だから、これでいいんだよ」
「そっか……じゃあ、これを託生に貸したのは、正解だったな。このバイオリンが託生の手元にある限り、お前とつながっていられるって事だろ?」
 さといギイは、ぼくの言いたいことにすぐに気づいて、ふわりと微笑んだ。そしてぼくをそっと引き寄せ、バイオリンごと抱きしめてくれたのだ。


 ――この奇妙な赤い糸騒動は、祠堂の面々に悲喜こもごもの結果を残していったようだけれど、とりあえずぼくにとっては、結果オーライだった、みたいだ。






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 ここまでお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました!
 途中、アンケートの日程を間違えたりなんだり、いろいろとミスをしましてすみませんでした。
 あと、これはアンケートというよりも投票だな…とか途中で思ったり、赤い糸がつながってるのに託生はどうやって寝巻から着替えたんだろう…とか、自分でも色々疑問に思ったりしましたが(笑、適当ですみません。

 ちょっと制作の裏事情などをご紹介させていただきますv
 今回は、15万ヒットのお礼ということで、このサイトを訪れてくださる皆さんに楽しく参加していただけるような企画を、ということでこのような形のお話を考えました。アンケートの結果によって展開を決める、というのは自分でも手探りの企画だったのですが、最初にいくつかの展開バリエーション(赤い糸、という設定でありそうな展開)を考えておいて、アンケートのたびに項目や登場キャラクターを後から工夫していくという構成にしました。なので、この「赤い糸」は、本当に参加してくださった皆さんによって完成できたお話、ということになると思っております。
 最後のアンケートは、ラストを決める選択肢ということで、どうなるのかなあとワクワクアンケート結果を待っていたのですが、当社比で一番リリカルなエンドになったように思います(ネタばらしをしてしまいますが、他のふたつはナンセンスドタバタエンドとコメディエンドの予定でした、笑。

 そんなわけで、コイモモ15万ヒット&御礼企画完成、本当にありがとうございますv今後ともどうぞコイモモを宜しくお願い致します!

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