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急ブレーキをかけたために、わたしは前につんのめりそうになった。
「…あっぶねえなあ、ったく。そんなに急いでどこに行くってんだ? 生き返ったばっかりで、一体何をするつもりなんだよ?」
わたしの腕をとって転ぶのをふせいでくれたのは、あの男だった。わたしは彼を睨んでやった。
「あぶなかったのは、君がいきなり声をかけてわたしを驚かせたからだ…君も甦っていたのだな」
「なんだよ」
「サガは聖戦に貢献した聖闘士が甦った、と言っていた。君もちゃんと甦っていたのだな。もしやだめかと心配してしまった」
わたしの言葉を嫌味と受け取ったのか、男はいやな顔をしたが、反論はしなかった。自覚があるのだろう。
わたしはきちんと彼に向かい合った。せっかく甦ったというのに、相変わらず昏い男だ。服装も相変わらず下品すれすれの派手な服で、そういえばアテナがわたしたちを甦らせてくださった時には、一体どのように服を選ばれたのだろう。わたしは簡単な白いシャツなのだが。
…いや、服のことは今はどうでもよい。わたしはこほんと空咳をして、彼の目をまっすぐに見つめた。
「ところで、先ほどの言葉だが」
「あ?」
「イタリア語だろう。もしかして、最初に会ったときもあのように言っていたのか」
「…あー、よく覚えてたな」
んな古いこと、とぼやく彼に、わたしは真面目な顔をつくろった。
「…デスマスク」
「なんだよ」
「ti amo」
彼は驚いた顔でわたしを見返した。
「と、いうのだろう、確か。びっくりしたか? こう見えてわたしは、テレビの講座でイタリア語を勉強していたのだ。ずっと君にきいてもらいたかった。君はシチリア島出身だと聞いていたから」
ti amo、愛しているという意のイタリア語だ。初級の講座のごく冒頭から登場していたこの言葉は、イタリアでは相当頻出の言葉なのだろう。軽薄なものだ。
デスマスクは少し黙った後、ふいと横を向いて呟いた。
「…ti amu」
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