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わたしは懐かしいサンクチュアリに立っていた。
ふわりと乾いた風が頬をかすめる、懐かしい砂埃とかすかな緑のかおり。
目の前には、サガと、そしてアイオリアによく似た男が立っていた。驚くべきことではあるが、おそらく彼はサジタリアスの――
「お帰り、アフロディーテ。お前は甦ったのだ」
「…え?」
サガが優しげに微笑んでいる。うまく声が出ずこほ、とちいさく咳をしたわたしに、アイオロスが晴れやかな笑顔で言った。
「久しいな、ディーテ。元気だったか?」
「アイオロス、元気なわけがなかろう。彼は今の今まで死んでいたのだ」
「だがおれが死んで後は元気だったのだろう」
サガとアイオロスの暢気なやりとりについて行けず、黙ったまま見守っていると、サガがこちらににっこり微笑んで口を開いた。
「アフロディーテ、聖戦は終わったのだ。そして、アテナは聖戦に貢献した聖闘士たちを、そのお慈悲で甦らせてくださった。まあ、冥界との取引などもあったようだが…とにかく、お前は再びピスケスのアフロディーテだ」
「…そんなことって」
動揺のあまり声が震えるのが、自分でもわかった。
「いや…現世に戻らせていただくまではわかりますが、…ピスケスとして、というのは、しかし」
わたしの言葉にまなざしをゆらがせたサガにかわって、アイオロスが朗らかに笑った。
「その理由も正当性もそのほかのことも、これからゆっくり悩めばいいさ。まだ随分、時間の猶予ができたようだし」
「…そうだな、アイオロスの言うとおりだ。アフロディーテ、とりあえず自分の宮で休みなさい。休んで、それからゆっくり話そう、皆で」
サガはそう言ってわたしの後ろの双魚宮を示すと、そのまま教皇の間の方へと歩き出した。アイオロスはその後に続きながら、わたしに振り返るとまた笑った。
「お前で最後だ。わたしたち二人のほかは、下階の宮のものから甦らせたそうだから。待たせてしまって悪かったな」
わたしはぼんやりと二人を見送り、それから双魚宮をしばらく見上げ、くるりと踵を返した、そのまま走り出す。身体は意のままに軽い。昨日の続きのように、しっくりとわたしの身体だ。十二宮をつなぐ階段を一段飛ばしで降りてゆく、スピードがどんどん早くなる。磨羯宮のあたりでシュラとすれ違ったような気がしたけれど、声をかけるいとまもない。
一心に前だけを見つめ十二宮を駆け降りるわたしの背中に、明るい声が聞こえた。
「Ciao, bello! Sei belissima assai!」
「…あ!」
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