「え?」
「シチリアの方言だとti amu、になる」
「…そうなのか。ti amu、か」
 わたしは素直に頷いた。デスマスクは少し笑うと、やっとわたしの目を見た。
「ま、お前は標準イタリア語で充分だろ。なんだよ、恋人がイタリア人なのか?」
「そうなるといいと思っている。どう思う?」
 問い返すわたしに、彼はまたふっと笑った。相変わらずいやな笑い方をする男だ。
「テレビ講座で覚えたにしちゃ悪くない発音だったぜ。愛を告げる時には、花でも一緒に渡してやりな。お前の得意な薔薇でもさ」
「薔薇か。薔薇は今ない。では、だめなのだろうか」
「は?」
 変な顔をしているデスマスクに、わたしはなおも言いつのった。
「返事をきかせてほしい」
「…は?」
「君にきいてもらいたかったと言っただろう。ti amu、君が好きだ。最初の死より前から、ずっと」
「……………は?」
 壊れた機械のように反応が鈍くなってしまったデスマスクの返事を、わたしは辛抱強く待った。アイオロスの言っていたとおり、時間はたっぷりあるのだ。


 彼がわたしを嫌いでも、からかっているのでも馬鹿にしているのでも、なんでもいい。それでもわたしの外見くらいには、もしかしたら興味をもってくれているのかもしれないと思うのだ。
 なにしろわたしは自分の美貌にだけは多少の自信があるし、そして彼のくれた本当に数少ない言葉たちは、きちんとすべて覚えているのだ。まだほんの幼い頃の、初めて出会ったときの言葉さえも。


『Ciao, bello! Sei belissima assai!(よお、美人!マジでイカスな!)』