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[ 二次/いろいろ ]

運命はすべて/「ラ・ドルチェ・ヴィータ」

 唐突きわまりなく『運命はすべて、なるようになる』の二次創作なのです!ニコルは浮気なんかしない!オチなんかない!
 というわけで、これちょっと、かなり前に書いたんですけど、続きが思いつかないのでそのままupしてしまいます。気が向いたら続きを書きます…。



ラ・
 ドルチェ・
     ヴィータ




 閉じたままの眸の向こうが朝の光に包まれている。夢とうつつの狭間で、少しずつ意識が覚醒していくのを瑛輝はひと事のように感じていた。
 目を閉じたまましばらくぼんやりしていると、鳥の声や風の音が遠く聞こえる。今日も晴れだ。そのままぼんやりしていると、どこからか甘い匂いもしてくる。やがて甘い匂いが強くなると、ぱたぱたと足音が近づいてきて、机の上に何かを置く音がした。しばらく間を置いて、瑛輝の寝ているベッドの片側がゆっくりと沈み込む。
 大きな手が瑛輝の髪を遠慮がちにひとなでして、離れていった。またもどってくると、今度はもう少しだけ大胆に、髪を梳いてくれる。
 薄目を開けてみると、ぼんやりと美しい恋人が見える。ベッドに腰掛け、穏やかな優しい笑みをうかべ自分を見つめている様子は、あまりにも満ち足りていて面映く、そしてなんだか少しせつない。
 ニコルは瑛輝が目を開けているのに気づくと、笑みを深くした。
「起きた?」
「ん……おはよ」
「おはよう、瑛輝」
 ゆっくりときれいな顔が近づき、ひたいにキスをしてくれる。顔を離すと、ニコルは本当にうれしそうに微笑んだ。
「朝食、できてるよ。食べる?」
「うん」
 子どもみたいに頑是なく頷いて返事をすれば、ニコルは立ち上がり、瑛輝の手をひいて起き上がらせてくれる。別に病人でも子どもでもないのだから、一人で起きられるのに。



 ハネムーンが終わっても、日常は帰ってこなかった。互いの愛情を疑っていたわけではないけれど、劉哥の船を降りてツアーがはじまれば、さすがにこの一月の蜜月のようには過ごせないだろうし、夢から醒めて現実に戻ってしまうのだろうと、瑛輝はなんとなく思っていた。
 けれど船を降りた後も、ニューヨークに戻り、やがて全豪オープンが始まっても――その後転戦したりオフに入ったりしても、ニコルはあたう限り瑛輝と共に過ごそうとしたし、その態度は飽きることなくひたすらに甘く、甘すぎるほどに甘かった。瑛輝は自分が砂糖漬けになって、いつか朝食のパンケーキをかざるふわふわのクリームの上に乗せられてしまうのではないかと夢想した。
 瑛輝を下にも置かないどころか、蝶よ花よとでも言いださんばかりのニコルのしてくれるあれこれのことに、自分にそんな価値はないと思い、瑛輝は少し卑屈になる。劉哥の儿童(チャイルド)ではなく、五セントで買われた下僕でもなく。そんな、何の価値もない、ただの自分にニコルは輝かんばかりの微笑みを惜しまずに送り、手をとり足をとり世話をやいてくれるのだ。
 初めて会った時から瑛輝を愛していた、とニコルは言う。
 初めてというのは、確かユアン・ポール・ロスティンの元でなんだったかのパーティが開かれた時のことだろう。ばかばかしい練習試合をしたはずだ。自分はあの時、ワーグナーしか目に入っていなかったし、ワーグナーの寵愛を一身に受けている美しい彼にたいして、そしてなんなく瑛輝に花をもたせるような試合運びをした彼にたいして、はげしく嫉妬し苛立っていただけだった。ニコルはそんな瑛輝によくも愛を感じられたものだと思う。
 さらには、ニコルが初めて瑛輝を見かけた折となるとそれ以前、オーストラリアで瑛輝がみっともない試合をしていた折のことらしい。
 本当に、自分なんかの一体どこがよかったんだろうと思う。
 なぜニコルは自分を見つけ、愛し、ここまで連れてきてくれたのだろう。



 朝食をたっぷりと食べさせられてしまい、もともとあまり朝から食事を摂る方ではない瑛輝は重くなった腹をかかえてソファにころがった。皿を洗って戻ってきたニコルに笑われて、仕方なく腹ごなしの運動をすることになった。勿論性的な意味合いのそれではなく、ロードワークとストレッチにはじまる一連のトレーニング、それから軽いラリー。もっとも軽いラリーといっても、相手が世界王者ニコルではそうそう気を抜いてはいられない。部屋に戻ってきた瑛輝はすっかりくたびれてしまい、シャワーですませるつもりだったのがついついバスタブに湯を張ってしまった。
 猫脚のバスタブに身体を伸ばしてのんびりと腕のストレッチをしていると、シャワーブースをつかっていたニコルがこちらにやってきた。バスタブのふちに腰を掛けると、ラヴェンダーの香りのするシャンプーを手にとって、丁寧に泡をつくりはじめる。
 瑛輝はいい香りのする泡を髪に載せられて、半分うるさげに手をあげた。
「ニコル、ニコール、いいってば、自分で出来るから」
「僕がしたいんだよ、瑛輝」
 甘い声とラヴェンダーの香りに、ついついくらりとくる。
「でも……」
 瑛輝は自分で髪を洗えない病人や子どもではないし、傅かれるような貴族でも金持ちでもない。ただ少しテニスが出来るばかりの―――それも、いまだニコルには敵わない程度の力量の、ただの瑛輝に、いったいなぜニコルはこんなによくしてくれるのだろう。
 ニコルはとろけるような笑みをうかべていう。
「恋人なんだから、これくらいさせて」
「ニコル……」
 瑛輝は降参し、それ以上反抗せずにニコルの手に頭を預けた。



 せめて、ニコルのために自分も何かしたい。ここのところ、ニコルに何かしてもらうばかりになっている。瑛輝は頭をなやませた。
 少し前には、舌が肥えているニコルのためにと思って、料理を初めてみたこともあった。
 流石に以前のような無茶な飲み方はしないようにはなったけれど、ニコルはやっぱりアルコールが好きで、甘いデセールも好きで、まずい食事が嫌いだった。でも瑛輝が調理を担当すれば、うぬぼれではなくきっと何でも喜んで食べてくれるだろうし、そうすれば食事管理の上でも多少は役立つのではないかと思ったのだ。
 キッチンにたつ瑛輝を見て、案の定ニコルはとても喜んでくれた。かわいらしいフリルのエプロンをしてみてほしい、その下は全裸で、などと通俗的なことを言いだして瑛輝の顔をしかめさせ、実際それに類するような悪ふざけを二人でしたりもしたけれど、瑛輝の目論見もそこそこうまくいったように当初は思えた。料理といっても、なにしろ技術がおぼつかないので、レシピを見ながらの簡単なものではあった。それでも、新鮮な食材と瑛輝の愛情とによってつくられたパスタやサラダやローストチキンを、ニコルは本当においしそうに食べてくれた。
 けれど瑛輝がコツをつかみはじめ、もう少し手間のかかる料理にもチャレンジしようかな、と思い始めたあたりで、それまで瑛輝にくっついて邪魔をしたり味見をしたりするだけだったニコルが、自分もやってみたいと言い出した。
 せまいキッチンに二人で並んで、鍋やフライパンをつかってあれこれするのも、それはそれで確かに楽しかった。だが、それまで瑛輝の調理を後ろから眺めていただけだったというのに、ニコルはすぐに腕をあげ、最近では瑛輝よりも巧みに包丁やその他の器具をあつかうようになってしまった。朝食によくつくってくれるパンケーキなど、本人が好きなメニューでもあるからだろう、今では一流ホテルのパティシエにも劣らないのではないかというほどの出来栄えをみせるまでになっている。
 栄養バランスもきちんと整っていて、不思議に思った瑛輝が訪ねると、チームの栄養士にアドバイスを受けているのだと種明かしをした。
 瑛輝は途方にくれてしまった。ニコルはあまりに万能で愛情深く、理想的な恋人だった。瑛輝が手を貸す必要などないほどに。

(つづく?)

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