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[ 読書/BL小説 ]

高遠琉加『美女と野獣と紳士』

 愛と混乱のレストランのつづき。

 ほんとにこの作家は、いっこも萌えないときと、まったくピッタリとあたしの好みで完敗なときとの差がはげしすぎる。
 今回は、まあ前作がよかったのもあるんだけど、よかったっていうかあたしのツボにジャストというか、とにかく読んでいるあいだじゅう、もう全編にわたってモエモエでした。萌えというのはお話が面白いかどうかとは別問題で、いやお話もたぶん面白いんだけど、しかしここまでの萌えはめずらしい。

 でも読み始めのあたりは、ちょっと混乱した。キスまでしといて、まだ全然恋愛関係には入っていなくて、相変わらず傍目には冷戦状態、だったのね。なんかもうちょっとは関係が進んでるんじゃないかと勝手に脳内補完してたので、違和感があった。あと、たぶん『長靴をはいた黒猫』と混線したのだと思うんだけど、シェフ弟と桃瀬が一緒に住んでるんだったっけ?とか妙な勘違いをしそうになった。
 あと、どうも次巻への引きが多いというか、この一冊の中ではあんまし解決してない問題が多いので、続きが気になる。

 美女こと、シェフの元カノフランス人女性は、シェフへの未練とか雑誌記者だとかの要素もまあいいんですが、なにしろとってもおいしそうに料理を食べる、という設定が、いいミソですね。ディレクトールは既に彼女へのニガテ意識をかんじてるけど、シェフと恋愛関係になれば更につらい気持ちになるだろうし、で、そのつらさはどうせひっくりかえされることだろうから、そのカタルシスが楽しみですね。って、そのカタルシスが次巻もちこしだとは思わなかったですがね… (笑
 彼女がもちこんだ、シェフのコンソメをさしての「金色のスープ」という言葉と、それに拒否反応をしめすディレクトールが、すごくいいです、かわいそうなんだけど。ディレクトールはおんなじコンソメスープを飲んでても、「金色のスープ」を享受出来ないんだなあ、と。

 野獣こと、シェフは、まさかこう来るとは思わなかったド最低な展開で、びっくりです(笑。でもシェフは、実はわりと無神経だしひどいし、それを思えばいきなりのこの最低ぶりも、まあそうかもなあと思える。
 だってこのシェフは、ディレクトールのかかえている傷を知った後でなお、弟のつくったパンを示してのお説教とか、イチがあんたのためにつくったんだからケーキ食べろとか、気持ちはわからんでもないが、精神的なキズを考慮してない無神経さというか、少なくともカウンセラーには怒られそうな対応なんではと思う。
 そしてだがしかし、そんなひどさすらもディレクトールには伝わってない気がする。なぜならあいかわらずディレクトール視点のシェフは、ただただ怖いだけで、だからそこにまだ好悪の感情は生まれてないんだよね。好きとか嫌い、以前の段階で。
 ジビエは…食べてみたいけれど、あたしも食べられないかもしれない。ところでディレクトールのために調理したジビエはどうなったんだろう。このシェフが食べ物を無駄にするとは思えないので、まあ誰かが食べたのだろうけど(笑

 紳士こと、本部長は、なんかそんな気もしたけどまさかそんな…という展開で、そうかー。

 ディレクトールがゴルドが欲しい、って言ってる意味というか、モチベーションがよくわからなくて、ちょっと理不尽というか不条理な夢なのかなあと思っていたのだけれど、そしてそれでもまあいいかと思っていたのだけれど、実はもう少し意味があったのですね。そしてその理由はベタだけれどますますせつない。
 そんなすべてを失ったディレクトールに、シェフはアレだもんなあ。ますます最低(笑
 けどもうどこに進んだらいいのかもわからなくなってしまったであろうディレクトールに、シェフは「あんた自身は、何が欲しいんだ?」と、いまひとたび問うてほしいですね。はたして彼があんなことされたシェフをほしいと思えるようになれるのかどうかは知らないけれど(笑。ていうか今の状態では、デイレクトールはおいしく食事をしたいとも、家族恋人がほしいとも思えないだろうし、だから何が欲しいかもわからないというか、何も欲しいものなんてないと思ってるだろうし。そうするとシェフは手詰まりになるんだろうけれど、どう事態を打破するのかな。本部長の手助けではなくて、単独で頑張ってくれないと、男っぷりがあがらん気がするけれど、既に本部長が動いてるしなあ。ていうか、この男っぷりというのも読者目線での評価かもしれない。シェフのド最低行動は読者にもシェフ本人にとってもド最低だけれど、ディレクトールにとっては別に評価対象ではないのかも。シェフはいまだ怖いだけの相手だからね。

 しかし、次で終わりの予定なのかー。この作者は潔いというか、シャレード文庫が潔いのかなあ。なんだかこうしてきっちり終了まで見据えたシリーズというのは、珍しい気もする。構成がきれいにまとまっていいんだろうけれど、淋しいというのも正直なところだ。

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