海野幸『八王子姫』
女装はニガテだと思っていたのですが、そうでもなかったみたいです?たぶん条件付きです。
受けの姉は男尊女卑な祖父に反発しバリバリのデキる女になったものの、押さえつけてるうっぷんを趣味のドレス作製ではらすようになっていた。そんな姉に手製のドレスをいやいや着させられてる受け、大学生、は、ある日ドレス姿で外に連れ出され、その姿をバイト先の先輩のアキバ系男に見られてしまう。そんなこんなで姉のせいでアキバ系とお茶するハメになったら、なんか一目ぼれされました。先輩たら仕事ではいつも人とかかわるのウザそうでミスするとやな顔してばかりのくせに、惚れた受けにはなんかすごい優しくて真摯で、モサかった外見にまで気をつかいはじめてみたら超いい男で、なんもかもビックリです。でも受けは受けで女子じゃないのに、どうしましょう。
受け姉がアキバ系先輩に受けの面倒をみてもらおうとして、受けはひとりきりになると心臓発作をおこしちゃうとか、小さいころ犬が自転車にひかれるのを見て以来口がきけないとか、無茶苦茶な嘘を言うのだけれど、攻めがそれを信じてしまう展開が面白かった。というか、そんな二人を知らない人が見れば、中二病のイタタなゴスロリ少女と、それをアイドル扱いしてるオタク青年みたいに見えるんだろうし、BL的には斬新な構図だ(笑
なんとなくそんなに(『美しいこと』みたいには)重い展開にならないかなと思っていたら、まあ確かに重くはならなかったけど、お手軽であっけにとられるような軽さでもなく、面白かった。
受けがなぜ姉の言いなりだったのか、なぜ女装姿の自分に惚れこんだ攻めに惚れてしまったのか、の理由がしっかり書かれててよかったです。
攻めは外見アキバ系で人間嫌いでやさしい紳士でドS、という複雑さで、特に後編では、前編でみられたようなストーカーまがいの行動をするようなちょっとあぶない感じもなく、Sっぽさも足りない感じで、前編のほうが面白いキャラだったように思った。受けの方は姉とのあれこれはわかりやすいけれど、最初に出てきた相手にあわせちゃうというキャラがそのあとあんまり出てこなかったのがもったいなかった。そんな感じで、特に攻めはキャラが立ちきってない気もするんだけれど、でも惹きつけられる魅力は十分にあった。
というわけで、かなり面白かったです。
で、以下は内容にはあんまり関係ないけれど。
受けの姉は…歩き煙草は、女の子がしたらみっともないからじゃあなくって、マナー違反だからダメなんじゃないか…!!!フェミニストが女性解放とかいってマナー違反をするのは本末転倒だ。
あと、アキバ系ってすっかり差別用語になっちゃったよね。BLにはわりとオタクっぽいキャラでてくるけど、外見だけ(しかも本作のように、手を入れるとメチャ美形になる)だったり、改心(一般人化)したりすることが多いし、アキバ系=克服すべき欠点として扱ってるよね。BL読んだり書いたりしてるのは女子オタクが多いと思うんだけど、いみじくも同じオタクである男子オタクを見下して、それだけではなくさらにそれを物語に徴用していくこういう視点は、無意識なんだろうけどいい印象をうけないなあ。