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[ 読書/BL小説 ]

高遠琉加『愛と混乱のレストラン』

 『愛と混乱のレストラン』ですよ!
 ですが……

 絵師さんには失礼だけど、正直、この表紙はあんまし購買意欲をそそらないんじゃないかなあという気がしてます。
 あと、はっきりいって裏表紙の梗概もいまいちです。つぶれかけのレストランのディレクトールが、傲慢問題児若手シェフの無茶要求をのまされる、ってくらいしかわかんないし、あんまり訴求力がないと思うのです。あたしもこの梗概だけだったら、買ってないかも知れないと思ってしまうくらいに(まあ作者買いの対象にはしたでしょうけれど。
 そして何より…このタイトルですよ。『愛と混乱のレストラン』。どうなんですか。BL的に、あんまり買いたい気になんなくないですか。なんかもっとモエモエするような、あるいは色っぽいタイトルじゃなくっていいんですか。

 しかも、この作品には、まだ更に関門があるのです。
 このお話、前編のラストまでは、上記梗概のとおりにすすむのです。ざっぱくに言っちゃえば、相性のわるいディレクトールとシェフを中心とした、レストラン再建話です。BL的な視点で言えば、エロはおろか色っぽい場面のひとつもありはしません。
 でも、その後の展開はいろんな意味で圧巻(当社比)なのですよ!そして、この梗概にのらない後半部分は、たぶん何も知らずにお読みになった方が面白いと思います。あ、エロはやっぱりないですけどね(笑

 ですから、是非。
 クロエのネタバレだだもれ感想なぞをお読みになる前に、この作品をお読み下さい。


 ああぁ…以下続刊ですか…!!!シリーズ化ですか!シリーズ化は予想してたけど、二人の仲はもうちょっと進むと期待していたのに…。書き下ろしがパティシエの話だなんて…。

 まあそれはともあれ、こうしてまとめて読んでもとっても面白かったけど、やっぱり雑誌で最初に読んだときの衝撃がすごかったので、上記のような妙な前振りをしてしまったのですよ。

 前編・後編それぞれであかされるディレクトールの秘密が、とってもツボです。
 あれかなあ、あたしは「何か」を剥奪されてしまったキャラに弱いのかも知れない。最初からもってなかったり、奪われたりと。特に、この「食」に無関心でいるしかない・さらにはそれを憎悪せざるをえないディレクトールのありようは、読んでてすごく切ない。「食」は多くのひとの楽しみであると同時に、ディレクトールも思うように人が避けて通れないものなわけで、娯楽であると同時に義務なのであって、それだけ重要な位置を占めてしまう概念にたいして無関心ならざるを得ないというのは、やはりなんともかあいそう(ディレクトール本人が言うように、こうした同情心は権力的ではあるのだが)だと思ってしまう。そしてそれだけではなく、生来不器用でもあるのだろうディレクトールが、一生懸命自分を守ろうとしているのはとてもけなげでかわいくて魅力的だ。

 たいするシェフは、ディレクトールの秘密を知っても、それまでのきびしい言葉の数々を取り消したりしないし、同情されてるとディレクトールに感じさせてしまったり、ディレクトールにとって決して都合のいいキャラではないのが魅力的だし、今後の展開が楽しみな感じ。

 このテクストは視点人物がそれこそ混乱しまくりで、ディレクトールとシェフとの視点はいいとして、ギャルソンの視点がしばしば入り、それなのにほとんど違和感が無いし混線してるような印象もない。
 ディレクトール視点では、シェフがすごく恐くてきびしいのだけれど、シェフ視点では、まあ粗雑な性格は出てるけどわりと普通の反応してるだけなので、そのそれぞれの感じ方の落差を描くのがうまいなあと思った。

 そんなわけで、正直最初はこのタイトルもどうかと思っていたのですが、この内容にすごくしっくりくる気がしてきて、今ではとってもいいと思っています(笑

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