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[ 読書/BL小説 ]

松岡なつき『アンダルスの獅子』

 かわいいは正義、なら、健全さは武器なのかもしれないわ。

 続けて歴史物。もはや世界史の知識はあいまいになってしまって定かでないのだが、王国名以外の部分はほとんど史実とか実在の名称だった気がする。イザベルとアラゴン王とか。でもあんまし違和感なかった気がする。
 で、歴史物は疲れている時にはあまり読みたくなかったのだが、面白そうな予感はしたので頑張って読んだ。ら、やっぱりまともに面白かった。

 レコンキスタ。ナスル朝がカスティーリャに侵攻されそう、という地域・時代設定。
 カスティーリャの都市を攻めた際に大敗を喫し、どうやら内通者がいるらしいということになったグラナダ。スパイを摘発するため、有力一族の異端子である黒衣の攻めは、カスティーリャ語とアラブ語に堪能な奴隷を捜すことを命ぜられる。早速海賊船でカスティーリャ人=受けを買い取ったのだが、非常なはねっかえりで攻めも恐れずに反抗しまくり、そんな受けを攻めはとっても気に入ってしまう。傲慢というか非情な攻めに、受けは大反発をするも、奴隷として跪くハメになってしまって云々。

 お話は面白かったのだが、最後がちょっと不満。
 作者は後書きで、傲慢冷徹攻めというのはBL世界では最後に傲慢さをあらためることが多いが、それはほんとの傲慢さではないと思うので、それをあえてさせなかった、というようなことを書いている。で、それは別にいいんだけど、しかしそれでもやはりこのラストには不満が残った。やっぱりあたしはBL的に傲慢さを謝罪して愛を請うような傲慢攻めのが好きなんかなー、とも思ったけど、よく考えたらそれだけでもない気がしてきた。
 というのも、テクストの前半では攻め視点もしばしば入っていたのだけれど、その攻め視点においては、攻めの冷徹さの根深い理由とか、しかし心の奥底では他者に愛されることを望んでいることとかが、かなりきっちり書き込まれているのだ。そういう描写があるからこそ、読者はこの傲慢な攻めに感情移入して/出来てしまうのだけれど、同時に読者は、受けの幸せだけではなく攻めの幸せをも期待させられるようになってしまうと思うのだ。だから、このテクストにおいてラストか、せめて後半で攻めが幸せになること、というか幸せだと感じること=受けに受け入れられた(駄洒落ではない)と感じる描写が、それも出来るなら攻め視点での描写が必須だと思うんだけど、それがないんだよね。
 後半では攻め視点はないままだし、受け視点で気持ちが通じ合って最後には手を取り合えても、攻めはただ傲慢なままだし、特に心が救われたというような発話もないしで、愛されたいと願っていた攻めの心のゆくえがはっきりと書かれてなくって、だからなんだか不満が残るのだと思う。まあ想像で補完してもいいのかもしれないけれど、前半では攻め視点があったのに、それが後半ではなくなってしまうってのは、やっぱり構成としてもあんまりきれいではないかなという気もするし。

 まあなんだか文句が長くなりましたが、それ以外の点はほとんど問題なく面白かったです。お話も面白いし、キャラもしっかりたってたし。亜樹良のりかずの絵は眼がちょっと怖すぎるがやはりうまいと思う。
 あ、ただ、タイトルがいまひとつな気がする。アンダルスはアンダルシアのイスラーム読みなのかな。あんまり一般的な名称ではないと思う(あたしが寡聞なだけかもしれませんが…)ので、伝わりづらいのではと思う。獅子と言うのも、受けがちょっとそう思っただけであんまり物語にからんでこないし。

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