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[ 読書/BL小説 ]

木原音瀬『吸血鬼と愉快な仲間たち2』

 『吸血鬼と愉快な仲間たち』の二巻。一巻が大好きなのでワクワク期待しつつ、しかしあれの続きって難しそう…と不安も持ちつつ。一巻はアルと暁の出会い編ってこともあり、すごくドラマチックで構成も面白かったんだけど、続きでは同じような構成にするわけには行かないわけだし。

 で、結論から言うと、やはり一巻の方が格段に面白かった。
 ちょっと構成があまいというか。前半はやや散漫で冗長な印象で、暁に片思いする見習いエンバーマー室井とかアルの撮影話とかのいろんな話が、何が本筋なのかがよくわからないままにどんどん併置されていってしまう。後半は突然の殺人事件はともかくとして、室井の家族のエピソードとか最後に突然入り込んできて、なんか前作もそうだったけど、末尾で突然展開をつめこんでしまってる印象で、これは何なんだろうって思った。
 室井が暁の胸で泣くとことか、アルの気持ちを動かすのに必要だったんだろーなーと思うんだけど、ここでぐんっとアルの気持ちが動いてしまうというのは、なんかやっつけっぽい印象。この二巻はアルが暁に気持ちをよせるようになるためにあったって面もあると思うんだけど、で、気持ちのゆれとかは折々にかかれてたんだけど、でもその筋において撮影所での話はあんまし活きてなくって、だから殺人事件がメインで書かれてきた後半に、突然室井のエピがきてアルの気持ちが動いても、なんか唐突で浮いてる感じ。
 撮影関係の話とかだって、アルの暁への恋心につながってく部分もあるはずだし、たぶんいろんなエピの配置をちょっと換えたら、もっと自然につながってた気がする。なんだか勿体無い。アルの暁への告白(みたいなもの)もなんか買い言葉っぽかったせいもあるんだけど、やっぱりなんだかしっくりこないので、暁への気持ちの変化はもうちょっと丁寧に書いて欲しかったなあ。
 あと他のキャラの描写とかも、新キャラが随分出てきたけど、その分一人一人が薄かった。勿滑谷とか、都合いいキャラみたいになってしまってて、なんだか勿体無い。津野は面白いけど。アルと暁をゲイカップルだと思い込んでのいろいろな反応がベタだけど面白かった。搬送のときとか(笑

 そんなわけで、全体的にちょっと雑だなあという印象があったものの、それでもやっぱり元々がすごく好きなお話なので、ゆっくりじっくり読んだ。
 室井が勘違いする車の中でのキスとか、吸血鬼とBLというモチーフが活きてていい。吸血鬼であることを隠さなければならないしんどさとか、それと裏返しな知っているもの同士の少しあまやかな秘密の関係性とか、血が必要で・不死身という吸血鬼の身体がもたらすアルの肉体的なしんどさとか、暁のそっけなく不器用な優しさとか、この物語のおいしい部分がぎゅっと凝縮されてて非常に好きだ。
 しかし、やはりというか、暁がアルに血をあげるというのはとても大事な場面なので、アルは毎回大怪我とかすることになっちゃうんだろうか…(笑。ちょっと痛々しい。

 そういえばこの物語はほぼアル視点なので、明らかな勘違いとかもそのまま訂正されないことが結構ある(後日談で訂正されることもあるけどね。今回だと、花見で太巻きを知って、果物で太巻きをつくったらきっと暁も喜ぶに違いない、とか思って、その話がそれきりっていうのが、なんというかアルらしくって面白い。
 で、そんな書かれ方の中、暁のまわりくどいやさしさがまわりくどく描写されていくのがとても面白い。
 暁がプロデューサーになった酒入にドラマの監修をたのまれて、散々固辞してたのに急にあっさりOKしたのは、酒入がアルに目をつけたことを知って、要求を半分のむことでアルをメディアから守ろうとしたんだろうし、でもそういう暁の内心をアルは気づいているのかいないのか、とにかく発話においても心内においても暁のやさしさを直接的には言説化しないのが、むしろよい。そういう意味で、鈍で勘違いもしがちなアル視点のエクリチュールは、不器用な暁を不器用なままに何の評価もせず書くためにとても有効で、暁の魅力をうまく書いてる気がする。
 物語レベルの話に戻るけど、暁といえば、アル自身も言ってたように、アルにかんすることには過剰反応をするのは何でなのか。アルのことはどうでもよくなくなってるのか?
 うーん、いずれにしても、この二人の気持ちと関係の変化はすごく面白いので、三巻にも期待してます。

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