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[ 読書/BL小説 ]

★2007上半期・BL小説ベスト10

 BL小説は新刊数が多く、まだ知らない作家も多いので、少し迷いましたが、それでも今期はコミックよりたくさん読んだし(笑、ランキングをつくってみました。こっちも新刊のみです。
 小説の場合、基準を決めるのも難しいですね。漫画は総合的な印象、でランクつくってますが、なんだかそれができない感じ。だからエクリチュールでとか、物語そのものでとか、そういう基準で順位を決めたら、たぶん全然違う順位になるんじゃないかと思いますが、このランキングの基準は主に萌えです。なぜ『萌え』なのか?そこの所なのだ問題は。
 BLの小説なのだから文章が壊滅しててもへこたれないタフさが必要だ。時には時制が前後する可能性もあるし、誤字脱字もあるかもしれない。純文学にはちょっとキツイ文章だ。
 でもそのギャップが逆に考えてみるとおもしろいかもと思った。文章がメチャクチャでも、大きな萌えのある小説。基準は萌えしかないと思った。

 1. 橘かおる『砂漠の鷹と暗殺者』

 イブン・サーディは荒い息をつきながら、彼をひっくり返し正面から睨みつけた。ついさっきまで艶を孕んで潤んでいた黒瞳が、冷え冷えとした光を湛えてこちらを見あげてくる。そして、/「殺せ」/とひと言だけ発すると、顔を背けて目を閉じた。

 これまでさんざんな目にあってきたかわいそう受けに、絶倫(笑)かつ懐の広さはタクラマカン砂漠な王子様、王道ベタ展開、もうパーフェクトです。ファービラスです。アゥイエー(注※マヨイガにおける最大級の賛辞)です。
 2. 英田サキ『いつわりの薔薇に抱かれ』

 「お前のサービスには心がこもっていない。どれだけ丁寧で完璧だろうが、相手を思いやっていないサービスなら必要ない。自分を見下した者から尽くされても、ただ不快になるだけだ」/高峰は言葉を失った。あまりにも的を射た指摘に、言い返す言葉などあるはずがなかった。

 互いの正体を隠して惹かれあってしまうという王道をテクニカルに、大人なキャラクターをきっちり書いてくれてて、大変結構なお手前でした(笑
 3. 夜光花『凍る月 漆黒の情人』

 慌てて涙を拭う光陽を、梁井がいきなり抱きしめてきた。「クソ、どうすれば泣き止む? 俺が悪かったから泣くな、そんなにショックを受けるとは思わなかったんだ。お前が泣くと、俺にとっては貴重な食糧がゴミに捨てられていくようでたまらない」

 以前も書いたが、大変に文章がメチャクチャである…だが!それでもこれだけ萌えた、ということを個人的には大きく評価したい。これもある種のギャップ萌えか(笑
 4. 木原音瀬『牛泥棒』

 「そういえば、あれから里より便りはあったか」/徳馬はにこりと微笑んだ。/「トミ江の具合はいいようか」/ゆっくりと頷く。/「それなら結構」

 考えてみると明治ものに萌えるのは珍しいかも。これまでの時代物では、結構時代考証とかで醒めてしまったり、逆に書き込みがあざとくって醒めたりってことが多かった気がするので。しかしそういえば、妖怪もので萌えるのも、かんしゃく持ち攻めに萌えるのも、貞淑な妻受けに萌えるのも、めずらしいかも?
 5. 木原音瀬『秘密』

 細かな手振りを交えて、やや興奮気味に男は喋った。変な喋り方だけど、好意は透けて見える。啓太はこの男とセックスできるかどうか、自分に問いかけた。今までの中で一番まし。言うなれば『可』だ。

 また人格を疑われそうな予感がするのだが 、ディスレクシアの攻めがよかった。この作者的にはハピーエンドもよかった(笑
 6. 崎谷はるひ『ANSWER』

 秦野が気怠い声のまま泊まっていかないのかと声をかければ、真芝からは呆れたような一瞥が投げて寄越される。/「時々あんたの神経を疑うよ」/「そうか?遅いからと思っただけだけど」

 これまた文章も設定も展開も荒削りで、ちょっといろいろ古い印象もあるけれど、攻め受けともにキャラがたってて展開もベタでよかった。
 7. 佐藤ラカン『長靴をはいた黒猫』

 そのひとの愛する猫はまじりけのない黒く艶やかな身体をくねらせながら円卓の周りでじつに見事なダンスを披露してみせる。だが、円卓を囲む客人は、猫がダンスを踊っていることに気付かない。黒猫は決してバタバタと足音を立てないからだ。

 独特なエクリチュールでつづられていく攻め一人称と、そこで「黒猫」と呼ばれる受けが、不思議な雰囲気をつくっていてよかった。
 8. 九葉暦『balance due ~薄幸体質の男~』

 誰とも、会うなよ。/それと、女を部屋に連れ込んだりしたら俺は絶対に気づくからな。/そのときどんな惨劇が起こるか、自分にも想像がつかないんだからな。

 …これはあんまし萌えではないかも?雰囲気萌え?(笑
 9. 仔犬養ジン『裏切りの夜』

 言い換えるなら、彼は一番高い棚に飾られた最も豪華な景品、といった感じだった。銃口にコルク玉の代わりに羨望や軽侮の念、あるいはもっと単純な――睾丸にずっしり詰まった“やりたい”という切なる願望をこめて狙いをつけている男たちの、恰好の的。

 クライムものというワクの中で、攻めも受けもキャラが微妙にたってるのかたってないのかわからない…のだけれど、むしろクライムものBLそのものに萌え、という感じかもしれない(笑
 10. 魚谷しおり『優しい偽者』

 「伏見さんの伊沢部長代理へのお気持ちは、すごくよくわかるんです。男が……、その、男性の愛人になるなんて、生半可な愛情では出来ないと思います。それでも伊沢部長代理のために、別れてください」

 これはもういじっぱり受けにまっすぐなノンケ攻め、という王道ですな。


 引用部分はなるべく冒頭にちかいとこからとりました。
 次点は鳩村衣杏『ドアをノックするのは誰?』夜光花『七日間の囚人』榎田尤利『Stepbrother』『華の闇』あたりかな。
 ついでに、カバーイラストベスト3。汞りょう『うたかたの月』(いとう由貴)北畠あけ乃『balance due ~薄幸体質の男~』(九葉暦)稲荷屋房之介『水曜日の悪夢』(夜光花)ということで。

  

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