木原音瀬『牛泥棒』
明治。造り酒屋の長男、大学で植物学の助手に×攻めの乳母の子兼幼馴染で口のきけないお世話係。
三話連作というか、二話プラスおまけという感じ。
梗概などからはわからなかったのだが、プロローグで突然「あやかし物」であるということ(受けがひとならざるものを見てしまう体質で、身内に小鬼を飼っている)が判明し、かなり仰天且つガッカリ。だって多分BLとしてはあんまり期待できなさそう(つまり端的に言えばあまり萌えられなさそう)だと思ったし、そうだとしたら、残りの部分(非BLの部分)だけで楽しめるようなお話を書いてくれる作家ではなかろうなあ、という印象を持っていたから、ちょっとガッカリしたのです。
まあでも、それでちょっと一歩引いて読んだのがかえってよかったのか、かなり楽しめました。
攻めはお坊ちゃんでかんしゃく持ちで、最初の印象は『坊っちゃん』か?という感じだった(笑。ので、あんまし萌えなかった。本邦初の植物図鑑の話あたりから、おや?牧野博士か、と気付き、牧野富太郎について全く知らないことに気付いて調べてみたら、結構そのまんまだった(笑。
受けはたおやかに攻めに付き従う良妻賢母、という感じで、本文中でもまんま妻として下女として世話したい、とか書かれてしまう感じ(ところでジェンダー的に問題のある言葉の使い方が多かったのだが、時代設定からして仕方がない…のかな。
そんなわけでとにかく二人とも、書かれたキャラだけだとちょっときびしいんだけど、絵の効果が絶大で、少女漫画チックなかわいらしい挿画がかなり有効に役立っていた。かわいらしい挿絵と、次第に発展していく関係性のおかげで、かなり萌えた。
特に、一つめのお話で受けがあれつけてなかった話とか、二つめのお話で、攻めに浮気されたと思って受けが靴をみがきながら泣いてるとことか、そのつづきで女に襲われかけた受けのとこに攻めが戻ってくるとことか、個人的にはとてもよかった。
あやかし物としては、予想通り特に良くも悪くもない感じだったけれど、BL設定をうまく活かせてたかな、とも思う。
ひとつめのお話、いつ牛を盗むんだろう???と思っていたら、そう来たか、という感じだった(笑。あと、お話自体どうやって決着をつけるんだろう、ご都合主義っぽくなっちゃいそうだ…と思ってたらああいう感じで、ああこの設定をこう使えば、ご都合主義もアリだなあ、と思ったりした。
あと、周りのキャラたちもうざったくならない程度にしっかりキャラがたって&書き込まれていてよかった。
そんなわけで、予想よりもかなり面白かった。続編があったらいいなあ。