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[ 読書/BL小説 ]

夜光花『凍る月 漆黒の情人』

 二十歳までしか生きられないと言われ、傷がすぐに治ってしまうという不思議な能力をもっている受けは、ほとんど外に出ることも許されずに育った。事情を知らない受けは、自分の特異体質をいぶかしみながらも、二十歳になったら自由にしていい、という祖父の言葉を信じ、祖父と唯一の友人である幼馴染をたよりに二十歳になるのを楽しみに生きていた。二十歳の誕生日が近づいたある日、受けと幼馴染は恐ろしい獣におそわれかかる。更に後日、祖父の元に妙な男が訪ねてきた。

 こんな梗概では、正直食指がうごかないというか、凡庸なラノベサスペンスもしくはファンタジー、という印象で、最初は読む気がしなかったのだが、どうしても帰りに読む本がほしかったので買ってみた。
 …おもしろかった。というか、かなり気に入った。

 最初の数十ページはやはり冗長で、文章もあんまりうまくないのでやはりしんどかった。しかし秘密が明かされはじめて、更にBLとしての構成もととのってくると、もうすんごくツボだった。

 えーと、ちょっとネタバレになりますので反転しますが、「餌」たる人間を食べないとひとがたを保てない獣人攻め×獣人と契約しないと死んでしまう「餌」たる受け。

 ええと、以下もちょっとネタバレに近いですが。
 BLには限らないのですが、わたしは広義でのカニバリズム、というか、物語の中での機能としてのカニバリズムが大好きなのです。これは勿論現実のカニバリズムとは全く別次元での話で、というのは、物語の中であってもカニバリズムが表象されるというのは余程のことなので、なんらかの理由付けがなされたり、ほかの機能が付加されたりすることが多く、そしてそのことによって複雑で面白い物語が生成される可能性が生まれると思うのです。人間を餌としか見られない天使の出てくる寿たらこ『コンクリート・ガーデン』とかね。

 で、今回気付いたのだけれど、そうした機能としてのカニバリズムは、結局人間の関係性にプラスアルファの物語をもたらすこととかが可能だという意味において、BLととっても相性がいいんではないでしょうか。吸血とかの場合は、特に人間関係が面白くなるし、BLにも向いてると思う。
 ちょうどこれまたわたしの大好きな時間ものSFが、非BL物語においてもドラマチックだけれど、だからこそBLにおいてもその力をいかんなく発揮するように。

 まあうんちくはいいんですが、とにかくこの攻めと受けの運命による関係性はすごくツボだったわけです。
 受けは純粋培養系だけれど、結構ガッツがあるかも。祖父の面打ちをならっていることもあってか、なんとなく崎谷はるひ「白鷺シリーズ」を思い出すのだが、藍のようなかわいらしくピュアピュアな雰囲気ではない。恋とかしてみたい、とか言っちゃう無神経さも面白い。
 攻めも傲慢・不器用・親切という傲慢攻めのポイント揃い踏みで(笑、いいですね。受けがめそめそ泣いているのをもったいない、とか言って涙をぜんぶなめとっちゃうとことか可笑しくてよい。
 攻めが気持ちを自覚しちゃって、受けはまだわかってないのもいいです。後編では、攻めが断腸の思いで受けが幼馴染と契約することを許してしまい、受けはとまどいつつ攻めの元を離れて、結局戻ってくる、とかいうベタベタ展開を期待(笑。

 高橋悠の絵はあまり合わない気もした。じゃあ誰がいいのかと言われても思いつかないのだけれど。

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 しかしBL読んでると、ほとんどの作品で必ず一箇所以上日本語がおかしいところ(誤字脱字ならまだいいんだけど、いやよくないけれどね、言葉の誤用とか語法の間違いの方が気になってしまう)に気づいてしまうのですが、この作家は、というか特にこの作品が、なのかな、すごく間違いだらけで文章としてはかなりひどかった。内容は面白かったので、楽しく読めちゃったけど。BLの原動力は文章力よりも萌えなのか…なんだかそれは、せつないような…いや、萌えもエクリチュールの一部とみなして、文章力よりもエクリチュールが優位である、と考えておけば、いい、かな…(笑

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