榎田尤利『歯科医の憂鬱』
これも今月初旬に読んだかな。
板金職人×歯科医。
診察台では恐ろしい歯科医せんせいが外では別人のようににこやかほんわりやさしいひとなのです。
ちょっと二重人格っぽい歯科医も、元ヤンぽい板金職人も、それぞれに面白いし展開もそれなりに面白かった。
板金職人視点の前半からかわって、歯科医視点になった後半、冒頭のモノローグぽい部分がとってもかわいくって、ああいいなあ、と思ったんだけれど、視点人物になってしまったからか、だれにでも優しい外面、という特徴がしっかり書けていなかった気がする。特に元カレにたいしては、強気とはいかないまでも最初から優しくは対応してなかったし。わりにきっちり二重人格だった前半との整合性がとれてないことはもとより、二重人格ぽい歯科医というトリッキーな設定を軸にして、いやその事自体が悪いわけではないのだけれど、トリッキーさだけに頼って描写には気を使わないで一冊出来てしまいましたね、という印象が無きにしも非ず。
そういう意味では、ちょっとキャラ設定もうすっぺらかった気もする。前半でも歯科医の元友人にたいして感情を表出させる、あたりでの展開や言葉はやや軽かったかなあと。
あとプレゼントのエピソードとか、歯科医のコミュニケーションのへたさや半金職人の子どもっぽさは面白かったけれど、ちょっと読んでてしんどかったというか、「その先」が見えないというか。二人のダメな部分はこれから成長して変化していくのかもしれないけれど、変わらないかもしれない、宙吊り状態のままで終わるので、すこしもやもやが残った。
や、結構面白くは読んだんですけれど。ライトにまとまってて、ライトに楽しんだ、感じかなあ。あ、あとなんかタイトルも内容に合っていない気がする…。うーん、面白かったけど、粗雑さも結構目に付きました、ということでしょうか。
あれ、でも一人称語り…だったよね?この作家の一人称語りはいまいちだったことが多いのだけれど、この作品はその点は気にならなかった。