佐藤ラカン『長靴をはいた黒猫』
四月始め頃に読んだ気がする。
図体のでかいヘタレわんこシェフ×美人オーナー兼ギャルソン。
フランス料理の店黒猫亭ではたらくヘタレわんこは、自分をダメダメシェフだと思っているが、美貌のギャルソン=黒猫と一緒にいたい一心で頑張っている。黒猫にはパトロンがいるのだが、黒猫亭では二人きりで働けるのだ。けれど黒猫は突然新人を二人も入れるとか言い出して、云々。
ヘタレわんこの一人称で、地の文ではギャルソンが常に「黒猫」と称されているのが面白かった。逆に本名が出てくると違和感があったり(笑。しかし、会話の中でもたまに黒猫になっているのは、ちょっとどうかなと思った。
独特の文体がヘタレわんこらしく、それでいて力強さもあってよかった。余白がすごく多く、ある意味説明不足なんだけれど、でもそれもヘタレわんこ一人称の「らしさ」がでてる感じでよかった。
たとえばヘタレわんこが魔性というか、触れた食材や相手をメロメロにしてしまう、という設定は面白いし、それをヘタレ一人称でぼやかして描写していくのが面白かった。
でもそんな状態なんだから、後半は黒猫一人称でいろいろ補完してほしかったなあ…続編も後輩一人称だし。しかし、この作者の既刊を読んでみると(後述)この人には黒猫一人称は書けないのかもなあ、という気もした。
黒猫はなぜ黒猫、なのかがよくわからなかったけれど、あまりに静かに歩くので靴の裏にニクキュウがついているに違いない、と思うところとか面白かった。しかし、だったら長靴…は、いらない、タイトルに…。
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というわけでこの作者は実はこの後既刊を何冊か読んで、はげしく後悔したりもした。『おいしいごはん』は主人公の吸血鬼美少年がウザったくって放り投げそうになった。いちおうラストまでパラ読みした。『現在少年進行形』も、双子のかたわれが多少ウザかったけれど、双子のしっかりものの方がモテていたのでよかった。でもパラ読み。『空中庭園』の前半は結構よかった。年下十代の俳優にドキドキワクワクしてしまう小説家がよくって、花の話とかすごく非日常的でふわふわしててよかった。しかし後半で年下俳優視点になってしまうと、もうとてもキツかった。
つまり子ども視点の話はキツかった。この三冊は幸いにというか、古書店で買ったのでまだよかった…。他に大人視点の作品があれば読んでみたいけれど、子どもの話はもういいや、という感じ。