橘かおる『砂漠の鷹と暗殺者』
これは…!!!ものすごい勢いでツボだった…!!その日のうちに三回くらい読み返しちゃったよ!(笑、いやほんとに。
碧眼のアラブ某国皇太子×その小姓、実は皇太子の命をねらうアサシン。
…わー!(笑、なんてベタな、そして危険な設定なんでしょう。ベタはベタでも、へたに書くとつまんなくなる可能性の高い、難しいベタ設定な気がするんですが、少なくともわたしはとっても面白かった。
後述するように、受けがものすごい勢いでかあいそうなんですよ。
かあいそうな受け、という設定は、他にどんな設定展開を組み込もうと、基本の筋は落窪もの(シンデレラもの)、つまり、かあいそうな境遇の受けが王子様に救われるという、すっごい単純な物語になってしまうと思う。でもわたしはそういうの実は大好きでして(笑、そしてどうせなら、王道は王道のまま、美しいまでの王道っぷりで書いてほしいなあと思う。また更に、その王道でベタな物語にどのような色を・どのような匙加減で入れるか、によって、更に昇華された面白みが生まれる可能性もある。
で、この作品はドがつくほどベタに王道に書いてくれているし、そこに個性をもたせるためのさし色もすっごく魅力的で活きていて、つまりとても面白かったのですよ。
受けは日本人の母とアラブ人の父の間に生まれるが、アラブの生活に耐え切れなくなった母が日本に帰国、その後父は事故で死亡。部族預かりで育つも、むりやり男娼にされてしまう。そんな折に某部族のシークに拾われ、才能を見出されてアサシンに。皇太子の暗殺へと差し向けられたものの、かなり冒頭の方で失敗、投獄、拷問。
皇太子はいろいろ考えた末に、受けを今までどおり側に置くことを決意。受けは皇太子の周囲の人々に白い目で見られつつ彼のお世話をするうち、アサシンの受けに対してさえ優しく度量の広い皇太子にずんずん惹かれ、でも皇太子は弟の彼氏が好きらしいし・自分なんてアサシンだし・元男娼だし・それでも暗殺をやめたら側に居させてもらう理由がなくなってしまうし云々…となんかもう様々な方面からの板ばさみというか、板は何枚あるんだ?って感じのかわいそうっぷり。
かわいそうな受け、は、ほらほらかわいそうでしょ!同情するでしょ!みたいな書き方されたり、冷静に考えると自業自得的な面があったりすると途端に萎えてしまうものですが、この受けは設定も性格も判官びいきにうってつけというか、凄絶な過去と健気でかわいくてでも強い内面とがしっくりきていて、ステキなかわいそう受け(笑…)だと思う。
攻めはどうやらこの作の前にあったシリーズのアテウマ役だったようで、弟の恋人に横恋慕してふられてから、その人を今でも思い続けている。外見的にはこれまた典型的な欧州系美形なアラブ王族なわけですが、テロか何だかのために頬にケロイドが残っているという…なんて燃える設定!(笑、結構最低っぽい発言だな…。性格にかんしても堂々たる態度と優しい内面とが王子的で、これまた良い攻めですね(笑
あと、受けに執着するシークとか、周りのキャラもそれぞれ面白かった。
物語の展開もドがつくほどベタで、しかし飽きさせない感じでとてもよかった。
絵は汞りょうがピッタリでよい。受けがかわいい顔なのに妙にマッチョでちょっと可笑しい。
ところでしかし、汞りょうの大人っぽい受けというのを見てみたい気がするのですが…。