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[ 読書/BL小説 ]

榎田尤利『ごめんなさいと言ってみろ』

 …。
 『ソリッド・ラヴ』『交渉人は黙らない』と読んで、うすうすそうかも、とは思っていたけれど。
 やっぱりわたしは、榎田尤利の一人称語りは苦手っぽい。
 でもこの作品の場合、ダメなのは語りの問題だけではないっぽいが。

 ハードボイルド系作家×少女漫画家。パーティで出会いひと悶着した二人が小説と漫画のコラボレーション企画で仕事をすることに。

 この作家、作家視点のプロローグで漫画家の美しさに目をうばわれた後に、パーティで漫画家と揉めたり、その後半年がかりで口説き落とした人妻と情事してみたりするので、これって全部漫画家の興味をひくための伏線?にしてはやりすぎで引くよなあ…と思ったけれど、結局こうした行動に作為はなかったようで、それもまた引くっていうかよくわかんないなあ、という感じ。冒頭でああいう語りがあったら、もう漫画家のことが好きになってるハズだと思ってしまうのは、BLの解釈コードとしては一般的な読みだと思うし、だから人妻との逢瀬とかめちゃくちゃ引くと思うんですが。
 まあそんなわけで、こうした恋愛面でのわかりづらさもあってか、作家側の感情の動きがよくわかんない(いやニブちんな漫画家に内心ニラニラしてるのはわかりやすいんだけど、契機とかが不明で唐突な気がする)し、キャラとしても魅力が薄い。尊大な人気作家で、傲慢なモテ男で、でも離婚した妻にとられた子どもの前ではいいお父さんで、といういろんな側面も、どうもばらばらな印象。

 そしてやっぱり、一人称語りもネックというか、漫画家もイマイチ。この少女漫画家には『交渉人』の交渉人みたいないやらしさ(いやらしさとまで言うこともない気がするのだが、他に言葉を思いつかない)はないけれど、高慢な猫のようで・天然でにぶいってのは、ただでさえ難しいキャラだし、この作品においてもうまく書けてるとはちょっと思えない。作家おとしいれ作戦が失敗してみっともない状況をあばかれてみたり、そういう子どもっぽさはやっぱりちょっと読んでてむずむずする。
 ただ、徹夜でネームきったりする辺りはよかった…単にわたしが漫画家表象に弱いだけなのだが…。

 あと、絵がニガテ。特に作家とか、場面ごとに顔が違う印象。

 しかし、一人称って難しいんだなあ…。一人称語りって結局、語り手となるキャラの魅力でひっぱっていかなくちゃイケナイので、なるべく多くの人に好きになってもらえて、感情移入しやすいキャラをまずつくらないとならない。その点を乗り越えたとしても、どうしても一人称のエクリチュールには語り手の自意識が飽和してしまう(勿論それって一人称語りだけの問題ではないのだけれど)しそれをウザいと感じる人はどうしても出てくるだろうし、読者を選ぶ気がする。

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