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[ 読書/BL小説 ]

橘かおる『皇帝は彼を寵愛する』

 …うわぁ。早速イマイチだった…!(笑
 最早、笑う。

 というわけで、こないだ読んで大いに気に入った『大公は彼を奪う』の前作なわけですが、『大公…』では前提とされていてあっさりとしか語られていなかった、北の大国シレジアのツァーリ×日本大使館付きの武官。のお話。

 たおやめ的な外見の武官は、幼い頃に父である外交官にくっついてシレジアにやってきて、皇太子に気に入られて仲良くなったのですが、勿論父の任期終了とともに帰国。二十年後、シレジアに内乱を起こすための工作要員という密命をうけて、ふたたびシレジアの地へ。

 ツァーリと逢瀬をかさねつつ、しかし仕事の上では祖国のためにツァーリを裏切らなければならない、という板ばさみ武官の苦悩、なわけですが、この武官はメインの視点人物だというのに、彼のツァーリへの愛情はほとんど言語化されていなくて、懐かしい幼馴染への感情、がいつどこで愛情に変わっていたのかがわからない。いきなり襲われて散々抵抗してたくせに突然受け入れちゃうのもわけがわからない。そんな感じであんまり感情移入できないというか、読者が置いてけぼりというか。読者を疎外して勝手に一人で盛り上がってませんか?視点人物なんだから説明責任を果たしてよ、という感じ。
(『大公…』の大使の場合も大公への愛情についてはかなり唐突に語られるのだけれど、この場合唐突さにはきちんと意味がある。つまり、立場上大公の愛はどうしても受け入れられないのだけれど、それでも惚れてしまいましたよ、というどんでん返しなので、唐突な愛情の言語化は効果的に活きている)

 一方のツァーリはいいかんじに尊大で中々よろしいのだけれど、すっごい激情家で、傲慢攻めが好きなわたしも流石にしんどかった。しかし何しろ役職(?)がツァーリなので、これくらい徹底的に書いてくれて全然構わないというか、確かに読んでてちょっとしんどかったけれど、でも好印象ではある。

 お話としては、尊大なツァーリにふりまわされまくりつつ板ばさみに苦しむ武官と、ツァーリへの裏切りの露見というあたりがメインなわけですが、どうもお手軽な印象があってイマイチだった。恋愛物語としては、結局ツァーリが強引に話をすすめましたね、という印象しか残らなかった。シレジアの行く末についても、どうもロシア革命は起こらずに議会を発足しそうなんですが、まあ攻めがツァーリなんでしょうがないけれど、なんだかあまりにご都合主義だなあ…。日露戦争が回避されるのはいいと思うんですが…(笑、って、なんでこう受け取り方が違うのだろうか、自分でもよくわからない。

 あと、せっかくロシア→シレジア、ロマノフ→ロストフと言い換えているのに、革命家ウリヤノフはそのまんまっていうのはツメが甘いというか何というか。うがちすぎかもしれないけれど、読者はレーニンの本名なんて知らないだろうとタカをくくっているのだろうか…。

 うーん、というわけで全体としての印象はいまひとつ、というところだった。ただ、超つまんない、というほどでもなかったけれど。でも『大公…』とくらべるとイマイチだし、『大公…』が面白かったのはわたしのツボCPだっただけなのかもしれない、と思うとこの作家にたいする評価はまだ保留だなあと思う。

 ただ、印象に残った場面とかもあって、特に再会の場面はよかった。
 ツァーリは幼い頃武官に日本語を教わり、かわりにシレジア語を教えてあげたわけなのですが、再会の場面において大使ですらない職員の着任挨拶にずかずかと踏み込んで、任務の都合上目立ちたくない武官が初めまして、とかシレジア語で挨拶しつつ頭を下げた瞬間に頬をはって、「その言葉、誰に習ったと思っている」なんてかますところは、ものすごく好きです(笑

 絵はツァーリはムキムキでいいのだけれど(笑、武官が雛人形みたいでどうも困る。まあ確かに本文内で雛人形みたい、って書かれちゃってるから、仕方ないんだろうけれど。

 …あ、すいません、本文ではツァーリという言葉一回も出てきてないや。

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 尊大攻め、というタグが必要だなあ。でも傲慢と尊大はどうちがうんだろう?

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