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[ 読書/BL小説 ]

木原音瀬『WELL』

 …えーと、BL?でいいんですかね?

 一体、何が書きたかったんですかね?

 あ、未読の方でとりあえず結末を知りたい方へ。全体的に(アレがくるかどうか)は、救助は来ません。BL(いちおう)的ラストは、両思いにはなりません。先に書いちゃう。

 さて、目が覚めたら地上は砂漠化していて、政治家の息子が家政婦の息子=同い年の幼馴染とふたりきりで地下室にいました。自分はひどく怪我をしててよくうごけません。幼馴染はちょっと頭がわるいです。もうダメかと思ったときに駅地下街の生き残りに出会ってなんとか仲間に入れてもらったり云々。続きでは地下街の優しいリーダー田村の視点になり、わるいやつらにだまされてつかまって犯されたりする。

 なんもかも半端。政治家の息子はこんな状態にあっても割り合い冷静で自分勝手、頭のわるい幼馴染は大好きな政治家の息子を守ろうとしていくうちに狂気のふちへ、田村は宗教者でなんとか人間としての尊厳を守ろうと悩み、独善的になっていく。
 というふうに、人肉食や殺人というモチフを配置して、極限状態における人間心理を類型的に並べてみました、という感じで、ぶっちゃけた話、特に面白さとか新奇さはない。

 気になったのは、微妙にキレイに思えること。洩らしても臭くても(言葉はきたなくてすみません)そんなにきたなくならない…気がする。
 比較として、たとえば人肉食のこととかを考えてみると、貴志祐介『クリムゾンの迷宮』とかってえげつない外面的な醜さが出てきてて面白かったんだけど、そういうグロテスクさはこの作品にはない。ディザスターものの典型的なきたなさレベルを超えようとしないというか。

 そういう面が先の内面描写にもつながってくのかなあ。いろいろな人間のいろいろな変化や不変化を書こうとしてるのはわかるんだけど、ディザスターもの典型類型というか、特に見るべきとこがないというか…。

 その意味でも、BLという物語枠に準拠して/もっとBL色を活かして描いたら、むしろ面白いディザスターものになったんじゃないかなという気がする。この作品はどう見てもやっぱりBLではない。ディザスタープラスボーイズラブ、をまっこうから書いたらどうなるかな。勿論陳腐に堕してしまう可能性も大いにあるけれど、陳腐さを回避したところに何か作れないものだろうか。

 あとがきを読むと作者は大分悩まれていたようだけれど、だからといってこの作品がディザスターものとしてもBLとしてもいまいちなことには変わりはないので。

 藤田貴美の絵はぴったり…だが『EXIT』はもう十巻まで出たのか…何巻まで読んだんでしたかね…。

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 ホーリーノベルズ?は本当に木原音瀬専用レーベルなんですかね。新刊案内見たら、作家名がのってないの(笑。これは作家冥利につきそうですがしかし、こういう作品を読んでしまうと、なんというか独りよがり通り越して自家中毒になってしまいそうで、どうなんだろうと思ってしまう。

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