"読書/BL小説"のアーカイブへ


[ 読書/BL小説 ]

木原音瀬『吸血鬼と愉快な仲間たち』

 今年こそ、感想はなるべくリアルタイムに更新したいです。ということで。

4883863107吸血鬼と愉快な仲間たち Holly NOVELS
木原 音瀬 下村 富美
蒼竜社 2006-12-15

by G-Tools

 木原音瀬は『箱の中』とかがすごく評価高いらしいので、読もうと思いつつも、逆にちょっと身構えてしまっているのかなかなか手が出ないのですが、この新刊をふと手にとって、軽い気持ちで買うてみてしばし積んでた。でもBLでファンタジーとか人外魔境とかってあんまり好きではないので、正直あまり期待していなかった。のだけれど、お正月のヒマにまかせてちょっとずつ読もうかと軽い気持ちで読み始めた、ら、と、とまらなかった…!一気に読んでしまった。(まだ)BLじゃないけど、すごく面白かった。久々にいい作品に出会ったと思えた。

 主要人物三人が顔をそろえるまでの前フリがかなり長いのだけれど、これがちゃんと読ませてくれるんですよ。その後も内容がすごく濃くて、わずか一冊によくまあこれだけ詰め込んだなあ、という感じ。それでいて描写が薄いわけでもない。各キャラもすっごく魅力的。

「助けて、助けて」
 吸血鬼のアルベルトは、ドのつくヘタレで、しょっちゅうべそべそ泣いてて、一生懸命ですごくかわいい。それもただ性格的にヘタレっていうだけではなくって、吸血鬼の孤独さ、やるせなさがよく伝わってきて、ものすごい感情移入してしまう。
 アルは昼は蝙蝠、夜は人間という不完全な吸血鬼で、キバを持たないために人間の血が吸えずに、ネブラスカの食肉工場に潜んで牛の血をこっそり吸って生きていた。だがある時、食肉にまぎれて冷凍されて日本に輸送されてしまう。解凍されたはいいものの、素っ裸で人間に戻ってしまったりして警察にやっかいになったりすったもんだするのだけれど、言葉が通じず、蝙蝠と人を行き来し、血も手に入らないアルが、誰にも理解されずにお腹をすかせて辛い目に合いまくっている様子がかあいそう(まさに宮沢賢治的な「かあいそう」の世界)で気の毒で、吸血鬼の「どうにもならなさ」を、この前フリがまずしっかり印象付けてくれているのだ。
 吸血鬼だとわかった途端、自分が人間の扱いをされていないような気がして悲しくなった。吸血鬼じゃなかったら、お腹が空いたら死んでしまうような人間だったら、もうちょっと優しく…というか親身になってもらえたんだろうか。腹が立っているのに、悲しい。涙が出てきた。
 だからその後、刑事の忽滑谷(ぬかりや)に連れられて出会った暁とのこのくだりなんかがすごく活きている。ここまでアル寄りで読んできている読者には、エンバーミングの際に捨ててしまう血をゆずってほしい、と願うアルの必死さとか空腹とかがすごくわかるわけですよ。だけれど、一方死者を冒涜するようなマネは出来ないと怒る暁の職業倫理もすごくよくわかる。どちらにも感情移入してしまってもどかしくて、誰か二人をわかり合わせてやってよ!なんて思ってしまう。

「お前が吸血鬼になったことも、冷凍になって日本へ来たことも、俺には一切丸ごと関係ない」
 そんな暁はツンデレというか、横暴で他人に無関心で不器用で、けれどアルのことをちゃんと心配してて、そんな割り合い定型キャラなのだけれど、やはり描写がうまいのかすごく魅力的。日本語のテキストを勉強しているアルが蝙蝠の姿で四苦八苦していることを忽滑谷に言われるまで多分気付いてなかったあたりとか、そのことを指摘されてもアルを甘やかすなとか言ってしまうあたりとか、なのに忽滑谷がいなくなるとアルを助けてあげるくだりとか、丁寧なキャラづくりだよなあ。

 ともあれそんなふうに、吸血鬼のアルと、ただでさえ人間嫌い気味の暁とはなかなかかみ合わず、でもだからこそ双方ともに魅力あるキャラになっていると思う。コンビニに行く挿話なんかも、買い物という日常行為を通じて悲哀を思い出してしまうアルの気持ちとか、一方そんなアルの気持ちに気付けない暁の不器用さやにぶさとか、けれど結局雨の中アルを捜しに行くツンデレな優しさとか、もうどっちもかわいくて仕方ない。
 そして、そんなふうに感情は常にすれ違い、だからこそ、まっすぐに行き会った時が、すっっごくイイわけなんですよね。

「いったい何を見てたんだよ。彼は人間だろ」
 忽滑谷もいいですよ。おだやかで冷静でアルにやさしくて、けれど仕事では案外にスタンドプレーしまくりで、実はドSという(笑

 あと今回は全然BLでないけれど、次回作ではBLになっていく予定みたい。年齢的に暁×アルかと最初は思ったけれど、読み進めるうちにアルのどヘタレ攻めだと思い始めた…どうなんだろう。どっちでもいい。とにかく楽しみだ。

 しかし、何ですか、このタイトルはあまりに凡庸というか…勿体無い。
 あと突然地の文が一人称語りになってるところとか、そこは「流暢」じゃなくて「悠長」ではとか、…やっぱり勿体無い。

 うん、でもすごく面白かったのですよ。

with Ajax Amazon

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://mayoiga.s6.xrea.com/x/mt-tb.cgi/849

コメントを投稿

with Ajax Amazon