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[ 読書/BL小説 ]

高尾理一『夜に濡れる蝶』

 最近なるべく表紙やあらすじを見るだけでなく、時間があれば少し立ち読みして自分との相性を確認してから買うようにしてます。この本も、ブックオフで冒頭を読んでみたのですが、あまりに面白いのであやうく最後までそのまま立ち読みしてしまうところでした。我に返って代金を支払ってきたのですが、それでも面白いのは冒頭だけ、展開やラストでgdgdという作品もあるし、まだ不安はぬぐえなかったのですが。もうこれは、最後までほんと面白かった。

 しかし、改めてみると表紙はキッツイな…。

4778101774夜に濡れる蝶
高尾 理一 せら
心交社 2005-11-10

by G-Tools

 ということで、アメリカの某企業社長×日本企業のアメリカ支社社員。

 これはすごい。面白い。面白いというか、あたし好みなんですな、きっと。万人受けするかといったら、そうではないかもしれない。
 頭のネジが一本どころかたくさんブッ飛んでる攻め、凛と逞しくも愛嬌があり・攻めの異常性に苦労する受け、しっかりした筋立てに展開、不可思議なのにしっくりくる言葉遣い、そこはかとないユーモアただよう文体、と、ゆずり好みの要素がきっちり揃っているのです(ちなみにこの条件がバッチリあてはまっている作品を描く漫画家が語シスコですな。

 攻めは傲慢で尊大で、日本人が大嫌い。自分に近づく人間は財産目当ての奴ばかりだと思ってて、恋愛はイコール肉欲の人。
 そんな攻めの会社と取引がある日本企業のアメリカ支社ではたらく受け。だが攻めは受けの上司のミスで頭にきて、受けのアポを五回もキャンセル。その後受けの突撃や逆上を経て攻めは受けに多大なる関心を寄せるようになり、突然受けを休暇に連れ出し、めくるめく日々を過ごそうとたくらむのだが云々。

 彼はおそらく、アルフレッドが鼻唄を歌いながら平然と六回もキャンセルをし、人を侮辱することで踊り出すほど楽しい気分になっているに違いないと思っているのだろうが、そうではない。

 こういうの。こういうそこはかとない、おくゆかしいユーモアがイイんですよ。

 そしてそんな文体を絶妙に活かした、イカれたキャラ造詣。
 特に攻めのイカれっぷりがスゴイのですが、たとえばキャンセルをくり返したことに関して、語り手視点で上記のような反省をするにもかかわらず、受けに対しては、六回もキャンセルさせて辛い思いをさせたことに対する謝罪を要求すんですよ!これはひどい!(笑
 傲慢ともちょっとずれる、エキセントリックでキテレツな思考回路が他者には傲慢に見えるというか、そんな攻めはあたしは大好きなんですが、そんなキャラを書こうとする作家自体が少ないし、狙って書ける作家も少ないと思うんですよね。

「私の神聖なるオフィスに下着をつけていないものがいる。そう知ったときはドキッとしたよ」

 この言葉づかい!しかもその状況はどうみてもあんたのせいです!この威風堂々たる傲岸不遜っぷり。たまりません。
 他にも受けが気絶したことに動揺して夜食のスコーンをひとりで全部食べちゃうとか、傲慢かつおかしな性格で、もうほんとステキなんです。

「そんな、変質者に迫られたみたいな顔で私を見ないでくれないか」「あなたのしていることは、まさにそうです!」

 そして、そんなエキセントリック攻めに対抗できるのは、きっちり強い受けでなきゃです。強く、しかし時にはほとほと攻めに嫌気がさして、それでも闘って、愛を勝ち得ていく、そんな受けでなきゃ!「セクハラにも負けず、パワハラにも負けず、金にも快楽にも媚びぬ、強い精神性を持ち、時々泣いて、めげずに怒り、いつも強く美しく攻めをトリコにする」そんな受けを、あたしはよみたい(笑

 そんなわけで、この受けは変態攻めに惚れて苦労することになるのですが、誰も愛さない、恋をしない攻めと、自分の感情とに、どう折り合いをつけるのか。
 その中でキイになっていくのが、受けが以前絵を描いていたというエピソードなわけですが、この設定が最初は唐突だったんだけど、しっかり話の筋にからんできてて、しかも受けの性格も攻めの性格も側面から照射するようなよい差し色になっていて、とてもよかった。
 というか、あたしがもともと絵描き表象に弱いってのもあるんですけどね。この絵の関連のお話がすっごくよくって、攻めが受けに「きみには芸術的なものを見る目がないらしいな」と言う場面とか、どんなにか受けがうれしかっただろうと思うと、ついついじーんと来てしまいました。

 ともあれ、本筋の恋愛物語としての展開は王道で、最後は勿論ハピーエンド。
 ただ、ちょっと最後の辺りはものたりないというか、受けがもうちょっと幸せになってほしい感もあるので、後日談がもっと読みたい…(同人は出てるみたいですが…。この辺りは急ぎすぎというか、ちょっと言葉足らずな気もする。

 でも総合的に、あたしはすごく面白く読んだのです。今のところ、ボーイズラブで一番お気に入りの小説のひとつです。

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 気に入りのテクストを言葉をつくして「好き」だと語るのはやはり気持ちが良いものですな…。その行為が外からどう見られるかは別として。

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