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[ 読書/BL小説 ]

鹿住槙『お願いクッキー』


 ええとまあ、まずすごくぶっちゃけた言い方をすれば、兄フラグワロス。途中までは。フラグか?と思われた当初は兄の方がいいんじゃ?とか思いましたが(ええ、ええ、わたしは美形エリートメガネに弱いですよ…)それじゃうまく終わらないよね、ってことで、どんどん卑劣になっていく兄を悲しい気持ちで見守りました(笑。モッタイナイが仕方ない…(笑。

 ていうか、そう思っちゃうのもたぶん椎名のキャラだてが弱すぎるからなんだよね。一真が椎名に惚れた理由って、仕事に打ち込んでる姿がかっこよくってとかいろいろ理由づけされてるけど、そんなんあんまり説得力がないと言うか、家の中で孤独だった一真に唯一やさしくしてくれたからってのが一番大きい理由に思えるし。それに岩本が言ってたように、実際の椎名はそんなやさしいだけの人間とは限らない。
 だから、一真は絶対この後苦労するだろうし、椎名にもゲンメツするような機会が絶対くるはずだし、作者がそこまで想定してこういう展開・語りにしたんならちょっと興味深いと思う。物語内では椎名のひととなりをボヤかしつつ、一真が苦労しそうな予兆も描き込みつつ、語りは一真の一人称だからそれらはなんとなくきれいに見えない状態にされていて、苦労知らずのお坊ちゃんである一真の一途な恋を描きつつ、でもそれが実は独り相撲になっているって様がよく描けているように思う。

 でもこれはボーイズラブなので、読者は物語に内在する一真への批評性なんて求めてないと思う。けど、だからもっと一真に都合のいい物語世界にすればいいじゃーん、と思ってるって訳では全く無くって、ただもう一皮むけててもいいと思うんだ。こういう<甘いだけではない物語>が甘くってこそ、更に可能性が広がるんではないかと思いたい。独り相撲の恋が、それでもハッピーでいてこそ、恋愛ファンタジーとしてのボーイズラブの面目躍如でない?
 しかもそのためにはたぶん、たなぼたラッキーではダメだと思う。一真の独り相撲な幼い恋が現実を知って、その後例えば椎名の譲歩とか外在的な力でハッピーになってもしらけるだけだよね。一真が努力してむくわれる、ってのが見たいと思うんだ。守られまくりの軟弱な受けはそれはそれでアリだけど、この話においては一真が軟弱ではダメなんだと思う。そう考えると、誰かが助けてくれるというご都合主義じゃなくって、自分の力で切り開くっていう展開、こそもしかしたらご都合主義なのかもしれないね。面白いなあ。

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