裏コイモモ
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「あ、そうだった、ごめんごめん。俺は平沢伸之。葉山とは、去年一緒のクラスだったんだよ」
平沢くんの声は平坦だけれどとてもおだやかな美声で、ぼくは一瞬気後れしてしまったのだけれど、ふと何かがひっかっかった。
この声にはなぜか、聴き覚えがある。
記憶を思い出すきっかけになるだろうか。
と、そこまで考えて、はたと思い出した。
「もしかして、さっきの放送かけてくれたのって、君だった?」
「うん、俺だよ」
なあんだ、そうか。
少しがっかりしながら、かるくため息をつくと、平沢くんはぼくの顔を覗きこむようにして、少し首をかしげた。
「葉山、記憶がなくって、困ってない?」
「う、うん。三洲くんとか赤池くんが、いろいろ助けてくれてる」
「そうか、赤池も三洲もいるんだよな。でも、葉山の味方はここにもいるからさ。俺にも役に立てるようなことがあったら、いつでも声を掛けてくれよ」
「あ、ありがとう」
平沢くんはそこで、にっこりと笑った。
「俺、葉山には助けてもらったからさ」
「ぼくに? 君が?」
即座には信じられないようなことを言われて、ぼくは思わず平沢くんの顔をまじまじとみつめてしまった。
だって、赤池くんがぼくの面倒を見てくれている、という状況だっていまだに信じられないのに、ぼくが人助けをしただなんて、ますますびっくりだ。
「そうだよ?」
平沢くんはこともなげにそう言うと、おもむろに右手をあげてぼくの肩にふれ、すっと腕をまわして抱き寄せた。
「あ、あの!?」
ぼくは目を白黒させながら、突然の事態に対応できずにいたけれど、なぜか嫌な感じではなかった。
それどころか、前にもこんなことがあったような気までしていたのだ。
やっぱりぼくは、この体温を、この人を知っている気がする。
「葉山、君は忘れてしまっただろうけど、俺は君たちふたりのためなら、いつでも喜んで力になるつもりだから」
え?
ぼくは思わず、横目で平沢くんの後ろ頭を見上げた。
「君たち、って……」





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