「葉山! もう起きてて大丈夫なんだ?」
談話室に入るなり大きな声で呼ばれ、ぼくはそちらに首をめぐらせた。
あれは……
「女の子?」
「んなわけあるか。高林泉だ。名前くらい、知ってるだろ」
赤池くんが、横から呆れ声で教えてくれた。
「ああ、彼が高林くんなんだ」
うちの学年で一番美人と評判の、高林泉。
こんなにかわいい人ならば、その評にも頷けるというものだ。
それにしても、その高林くんまでぼくの『お知り合い』なのだろうか。
こちらに飛ぶようにしてやってきた高林くんは、ぼくの背をおしてソファに座らせ、自分もその前に陣取ると、とまどう僕に構わない様子で話し出した。
「記憶喪失なんだって?」
「う、うん」
「へえー。じゃ、僕のことも、忘れちゃった?」
「うん、ごめん」
ここまであっけらかんと聴かれたのは今日はじめてだけれど、なぜか嫌な気持ちにはならなかった。
高林くんはがっかりしたふうもなく、続けざまに聴いた。
「ギイのことも、忘れちゃった?」
へ?
なんでそこで、ギイ?
「さ……崎くんは、一緒のクラスだったから、覚えてるよ」
ぼくがなんとかそう返すと、高林くんは目をまんまるに見開いてぼくを見た。
「崎くん。それって、超斬新。超新鮮」
なにやらしきりに感心している高林くんに、ぼくの隣りに陣取っている赤池くんが、低音で声をかけた。
「高林、お前葉山で遊ぶつもりなのか?」
「あ、違う違う。葉山たちさ、もしかして犯人を捜してるんじゃないかなと思って」
犯人?
赤池くんとぼくは、思わず顔を見合わせた。
3