「ああ、真行寺だな。葉山のことを随分心配していたし、呼んでこようか」
三洲くんはかるく頷いて部屋を出て行くと、すぐにその下級生を連れて戻ってきた。
「葉山さん、大丈夫?」
心配そうにぼくを覗き込む真行寺くんとやらは、ととのった甘いマスクに180はあるだろう長身、適度にがっしりしたスポーツマン体型で、すごくかっこいい。
「う、うん、ありがとう」
ぼくはなんだか気まずくなって、照れてしまった。なんだろう、もう。男同士だっていうのに。
「えっと、真行寺くん」
「はい!」
「君がぼくを見つけてくれたんだって?」
「あ、はい。そのまま運んじゃおうかと思ったんですけど、へたに動かしちゃまずいかと思って、中山先生呼んで」
かっこいい上に、思慮深い。うーん、こんな下級生と、ぼくはどこで知り合ったのだろう。
「君はどうして、温室なんかに居たんだい?」
「あ、俺いつもあそこに葉山さんのバイオリン、聴きに行ってたから」
「え? バイオリン? ぼくの?」
「そうっすよ」
「おかしいなあ、バイオリンはやめたはずなんだけど」
「そうなんですか?」
「うん」
けれど、三洲くんに教えられてクロゼットをあけると、確かにそこには見覚えのないバイオリンが入っていた。どういうことなのだろう? この二年間に、心境と環境の変化があったのだろうか。
「葉山さん、弾いてみたら?」
「バイオリンを?」
「そう。記憶がなくても身体が覚えてるってことも、あるんじゃないっすか?」
そうだろうか。
記憶がない今のぼくにとっては、中学時代にやめてしまって以来のバイオリンになるわけだけど。
「そうだね、弾いてみようかな」
「じゃ、俺、つきあいますよ」
真行寺くんはそう即答した。
「俺はちょっと生徒会に顔を出さないとならないから、行ってくる。悪いな、葉山」
三洲くんはぼくの方を向いて、すまなそうにそういった。本当は忙しいのに、ぼくにつきあってくれてたんだ、三洲くん。
「あ、そんな、ぼくのせいで仕事を邪魔しちゃって、ごめんね」
「いや、葉山のせいじゃないよ。それじゃ、葉山のこと頼んだよ、真行寺」
「うっす」
任せてください、と胸を張った真行寺くんに、ひらひらと手を振って、三洲くんは行ってしまった。
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