裏コイモモ
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夜気の中をゆっくりと歩きながら、ぼくは八津くんに改めて謝った。
「あの、ごめんね八津くん」
「何が?」
「ぼくにつき合わせちゃって」
「俺がそうしたくてつき合ってるんだから、葉山くんは気にすることないよ……四月に言ったこと、ウソでもないからさ」
「四月に言ったこと、って?」
八津くんはふふっ、といたずらっぽく笑った。
「なんでもない……ギイを敵にまわしてもっていうの、ただのはったりでもなかったんだけどね、葉山くんならさ」
「え?」
「ううん、何でも……ところで葉山くん、民間療法を試してみない?」
「民間療法?」
「過去に経験した、インパクトのある出来事を再現するってのはどう?」
うーん、確かにそれは、よく聴く話だけれど、……果たして本当に効果があるのだろうか? それに、
「でも、ぼくにそんな忘れられないような出来事なんて、あったのかなあ」
「あるよ? じゃあ試してみる?」
八津くんがあまりに軽く言うので、ぼくはいまだに半信半疑ながらも、つい頷いてしまった。
「今年の四月に、丁度ここでね」
八津くんは片手を上げて、辺りを示した。
気がつくと、ぼくたちは中庭の方にやって来ていた。夜気にふと腕を抱く。
「ここで?」
問い返したぼくににっこりと微笑むと、八津くんはぼくの腕に手を掛けた。
「寒い?」
「う、うん、ちょっと……え!?」
八津くんはぎゅっとぼくを抱きしめた。
「ちょ、八津くん!?」
「黙って、四月の再現をするから」
何ですと!?
驚きに声も出ないぼくに、八津くんはふわりとキスをした。





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