裏コイモモ
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「矢倉、隣いいか?」
「おう……お、葉山。もういいのか?」
三洲くんの声に振り向いた矢倉くんという人が、ぼくの顔を見るとにっこりと微笑んだ。
その声にこちらを振り返った皆が、心配そうに迎えてくれる。なんだか緊張して気後れがしてしまったぼくに、吉沢くんが声を掛けてくれた。
「大丈夫? 体の方は、もういいのかい?」
「う……うん、なんともないんだ。ありがとう、吉沢くん」
「まあ、座れや。三洲、二人分持ってきてやれよ」
「ああ。皆、葉山の事情は知ってるよな? 宜しく頼むよ。あんまりいじめるんじゃないぞ」
三洲くんはそう言うと、矢倉くんの隣にぼくを座らせて、食事を受け取りに行ってくれた。
斜め前になった八津くんと目があうと、にっこり笑ってくれた。
「思ったよりも元気そうでよかった、葉山くん」
「あ、ありがとう」
ぎこちなくもなんとか笑い返すと、皆がほっと息をつくのがわかった。緊張しているのはぼくだけではないのかもしれない。申し訳ないなと思っていると、離れた席から蓑巌くんが声をかけてくれた。
「困ったことはない?」
「うん、大丈夫。三洲くんがいろいろしてくれて」
「もし僕で役にたてることがあったら、何でも言ってね。授業が始まったら、クラスもいっしょだし、級長と副級長の仲だしね」
「副級長? ……ぼくが?」
なんで?
「で、俺とはふりふられ、の仲だしな」
「え!?」
なんですと?
「えっと、矢倉くん、じょ、冗談……」
「冗談なもんか。俺が葉山を口説いてふられてるところ、蓑巌も見てたよな」
「ああ、あの朝の? まあ……確かにね」
「あんまり葉山くんをからかっちゃだめだよ、矢倉くん」
気の毒そうにそう言ってくれる吉沢くんは、一年の時から変わらずにいい人だ。彼が階段長に選ばれたということは、下級生の見る目も確かだったのだろうなと思う。
そこへ背後から低い声が聴こえた。
「誰が、俺の葉山をからかってるって?」
「三洲、誰が誰のだって?」
三洲くんと矢倉くんがゆっくりと顔をあわせ、かちりと合った視線の間に火花が散る。
うう、こんなキワドイ会話、さすがはみんな最上級生だ……。
ぼくは妙なところで、ひとり感心してしまった。





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