裏コイモモ
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「ギイー、何落ち着いてんだよ。託生が大変だってのに」
「ああ、聞いた。記憶喪失なんだって? 託生」
託生、呼び捨て。
ぼくはどぎまぎしてしまい、声も出せずに、こくこくと頷いた。
崎くんはきれいな眉をそっとひそめて、ぼくをじっと見た。
「大変だな。オレに協力できることがあれば、言ってくれよ」
「あ、ありがとう」
「彼等の話ももうすぐ終わると思うから、後でそっちに行くよ」
「ギイ!」
「片倉」
声を荒げた利久を一声で抑えると、二人は何やら目と目で会話をし、やがて利久は大きくため息をついた。
「わかった。託生、俺の部屋連れてっとくから」
「ああ、頼む」
にっこり微笑んだ崎くんにおくられて、三〇〇番を出て、ぼくは思わずほうっと息をついてしまった。
「崎くん、相変わらず、親切だね」
「どこが!」
え?
そう言い捨てた利久を振り向くと、ちょっとふてくされたような顔で何やらぶつくさと言っている。
「あんなの、いつものギイの百分の一も『親切』じゃねーよ」
「そ、そうなんだ」
「だって、困ってるのは他の誰でもない、託生なんだぜ? いくら一年が部屋に居たからって、なんであんな平然としてるんだよ、ギイ」
「そりゃ……、ぼくなんかのことに、一々構ってられないんだろう? 階段長なんだろう、崎くん」
「だーっ、そうじゃないんだってば、託生!」
と、利久は、地団駄を踏みそうな勢いで、憤っている。
……なんだか、利久の言っていることが、よくわからなくなってきた。
「とりあえず、しょうがないから俺の部屋行こうぜ」
「う、うん」
勿論、異論はない、けれど……後で、崎くんが来るって、一体どういうことなんだろう?
多少不安だけれど、利久が一緒にいてくれるのは心強い。
ぼくは利久の今年の部屋へ向かいながら、あまり深く考えないようにしよう、と思った。






-the end [no. 3]-




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「たまには託生に頼りにされなきゃなー、俺も」
利久はうんうんと頷きながら、ぼくに『 n 』と書かれた赤紙をくれた。
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