裏コイモモ
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「おー、誰も居ない。貸切だぞ、葉山」
ガラガラとホールの扉を開きながら、赤池くんは僕を振り返って明るく言った。
「何かおごるよ。何がいい?」
「ありがとう。えっと、……じゃあ、コーヒーを」
「今日は、砂糖入りミルクなし?」
「……すごい、どうしてわかるんだい?」
ぼくが心から驚いてそう言うと、赤池くんはちょっと困ったような顔をしてから、少し微笑んだ。
「だって、葉山って意外とワガママだから」
「そ、そうなんだ……ごめん」
ぼくも二年間で随分変わったんだなあ、と思いながら、恐縮して頭を下げると、赤池くんはぷっと吹き出した。
「冗談だって」
「……ひどいや」
「あははは」
ふいにせつないような懐かしいような気持ちになった。
二年間の記憶はなくしたけれど、ぼくをさんざんからかって、時にやさしくて、こういう赤池くんを、ぼくは確かに覚えてる。
赤池くんはベンダーでコーヒーをふたつ買って、ひとつをぼくに渡すと、手近なソファに促した。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
二人で並んで大きめのソファに座り、しばしコーヒーを飲んだ。
ああ、やっぱり疲れていると、甘いものが欲しくなるというのは変わらないなあ。
ぼくは、甘くて少し苦いコーヒーの味を確かめるように、カップに口をつけた。





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